ユーザ紹介第86回 |
韓国ユーザ特集(2)
ソウル大学 環境大学院 |
交通管理研究室 |
Transportation Management LAB., Graduate School of Environmental Studies,
Seoul National University |
ソウル大学 環境大学院のホームページ
http://gses0.snu.ac.kr/eng/ |
車両挙動から歩行者行動のシミュレーションへ、更なる展開も視野
― 産学研の共同プロジェクト通じ独自のアルゴリズムを開発、
可視化ツールとしてUC-win/Roadの可能性に注目 |
今回は引き続き、韓国のユーザをもう一例ご紹介します。
ところで昨年、当社が開催した「第3回 国際VRシンポジウム」(「FORUM8 デザインフェスティバル2009−3
Days」(2009年11月18〜20日)のDay 2)において「World 16」のメンバーがそれぞれ研究発表。その中でハーバード大学大学院デザインスクール博士課程の楢原太郎氏は、エージェントベースの群集シミュレーションとUC-win/Roadとをリアルタイムに接続し、その相互作用を試みた研究について講演しました。
一方、これからご紹介する韓国のユーザは、ソウル大学環境大学院(GSES:Graduate
School of Environmental Studies, Seoul National University)で交通に関する研究を行う交通管理研究室(Transportation
Management LAB.)です。
同研究室では多岐にわたる交通分野の問題を、主にITSや交通運営、交通安全などの面からアプローチ。そうした一環としてソウル市内の乗換センター(transfer
center)を例に、交通管理の観点から多様な歩行者の行動をモデル化し、それをベースとしたシミュレータの開発を進めてきました。
次いで、そのアウトプットをどのように可視化するかと模索していた折、同研究室のイ・ヨンイン(Lee
Young-Ihn)教授が出席した2009年秋の韓国ITS学会でUC-win/Roadを知り、その利用可能性に注目。その後、かなり短期間のうちに導入を決定し、実際にその可視化ツールとして利用いただいています。
そこで、この歩行者シミュレータの開発プロジェクトに一貫して携わるとともに、同教授らとともにUC-win/Roadの導入検討、その後の利用でも中心的に関わられている同研究室研究員(Researcher)のハン・ミョンジュ(Han
Myung-Joo)さんと交通管理専攻のキム・ヒョンボム(Kim Hyung-Bum)氏にお話を伺いました。 |
ソウル大学は1946年、戦後の新たな教育の枠組みの中で韓国最初の国立大学として設立されました。韓国国内の高等教育のリーダーとしてはもちろん、世界的にも高い評価を誇ります。
同大Webサイトによると、そのソウルで最も広大なキャンパスには16単科大学(以下の大学関連の数字は2009年10月1日時点)、1大学院、9プロフェッショナルスクール(専門職系大学院)を設置。16単科大学には84学科、大学院には98専攻が置かれています。
また、常勤の教職員3,165名、学部生15,976名、大学院生10,054名が在籍。そのうち、学部生1,982名、大学院生979名、合計2,961名は海外からの留学生が占めています。
これに対し、GSES(環境大学院)が創設されたのは1973年。韓国の急激な経済発展に伴い、工業化や都市化による問題が顕在化。環境研究分野の専門家の養成が当時、喫緊の課題とされていました。そのため、GSESは、環境に関する論理合成が可能な専門家をトレーニングする場として位置づけられました。
GSESの専攻は、環境計画およびランドスケープアーキテクチャから構成。さらに前者は都市・地域計画、交通管理、環境管理に、後者はランドスケープアーキテクチャおよび都市デザインに、それぞれ細分化されています。これらとは別に、都市や地域、環境に関する政策向け特別プログラムも用意されています。
今回焦点を当ててご紹介する交通管理専攻は、交通計画や交通政策、交通経済、公共交通、交通工学、ITSなどに関する理論体系あるいは分析のための方法論を研究。加えて、交通問題解決のための事例分析および実習を行っています。
交通管理研究室では、交通管理専攻4名の担当教官の一人、ITSや交通運営、交通安全などを専門とするイ・ヨンイン教授が指導。今回の歩行者シミュレータの開発に先駆け、車両の加減速が影響する大気汚染のモニタリングシステムの開発(2006年)などにも取り組んでいます。
「(交通管理研究室では)これまで、前の車両との車間距離や車線変更など、車両の挙動に関する研究を中心に行ってきました」。もともと歩行者の行動シミュレーションは、特定の規則に従う車両の挙動パターンと比べて進行方向の選択肢が多い上、多くの要素に応じて行動パターンが複雑に変化することから分析対象にしづらい面があった、とハン・ミョンジュさんは述べます。
一方、潜在的なテロへの不安などもあって、歩行者の安全に対する社会的 「(交通管理研究室では)これまで、前の車両との車間距離や車線変更など、車両の挙動に関する研究を中心に行ってきました」。もともと歩行者の行動シミュレーションは、特定の規則に従う車両の挙動パターンと比べて進行方向の選択肢が多い上、多くの要素に応じて行動パターンが複雑に変化することから分析対象にしづらい面があった、とハン・ミョンジュさんは述べます。
一方、潜在的なテロへの不安などもあって、歩行者の安全に対する社会的な関心が近年とくに高まってきました。
また、大都市における交通混雑などの問題を緩和するソリューションとして、マイカー利用の需要を公共交通が吸収できる効果的な乗換のためのシステム構築は大きなカギになると考えられました。その反面、乗換センターに関する既存の設計基準は決して十分なものではありませんでした。それゆえ、乗換センターを新設する際にも所要時間が短縮するよう設計し、かつその効果を適正に評価することは難しいのが実情でした。
そこで、新たな乗換センターの建設が計画されたのを機に、その業務計画の設計およびそれに対する評価機能を向上させるため、まず歩行者行動の特徴を分析することが求められました。そうした背景から、今年4次年度を迎えた産学研共同のプロジェクトはスタートしたと言います。
そのターゲットとして、個々の歩行者の行動をモデル化し、それに基づき微視的な分析を行う歩行者シミュレータの開発が位置づけられました。
モデル化に当たり、まず歩行者の属性に関しては、性別、年齢(数段階の年齢層)、性格(急ぎの程度)、荷物(大中小、あるいは無し)、身体的な障害(交通弱者かどうか、その場合の程度)などを設定。次いで、歩行者が乗換センターへ入っていった時、どういう活動をするのか、どういう経路を取るのか、前に人がいた場合にどう動くか、なども考慮しています。
たとえば、歩行者の視野の中にどういった障害物が現れた時、前を行く人との関係も考えながらそれをどう回避するか、ということが盛り込まれました。その際は、前あるいは周囲の人の歩く速度を計算し、ぶつからないように動く方向を変えるというアルゴリズムも作成しています。
つまりこれらのアルゴリズムの開発を通じ、その人が目的地へ行くまでの間に何人を回避したか、その時に歩いている速度はどうか、といった歩行者の視点はもちろん、施設の平均利用時間や平均待機時間、発生する行列の長さなど施設に関する情報をリアルタイムに取得。シミュレーションによる結果も、シミュレーション時間、発生した歩行者数、歩行者の移動距離・時間・経路・平均速度などさまざまな情報が把握可能になりました。
同氏は開発したシミュレーションソフトを使い、地下鉄2号線および4号線が交差するソウル市内にあるサダン(Sadang)駅を例示。地上の歩道から地下1階の駅舎、地下3階の2号線フォーム、地下5階の4号線フォームなどにおける歩行者の動きについて説明。従来手法では、たとえば人の密度の表現自体が平均値に基づくものにとどまっていたのに対し、電車が来ている時と来ていない時で変化する人の密度がリアルタイムに評価できるようになった、とその進化の一端に触れます。
■ 歩行者シミュレータとUC-win/Roadをリンク |
シミュレータとしてアウトプットの可視化をどうするかは重要な要素の一つ。とは言え、同研究室において自らそこまで開発することは困難でした。まさにその部分をどうしようかと模索していた昨年秋、韓国ITS学会にイ・ヨンイン教授が出席。会場に展示されていたUC-win/Roadを見て、その可視化ツールとしての利用を着想。急遽、研究室のメンバーを呼び集めて検討を始め、きわめて短期間のうちに導入決定に至っています。
歩行者の行動する空間については、CADデータを3DSファイルに変換し、UC-win/Roadにインポート。また、歩行者の動きなどをシミュレータの計算部からマイクロ・シミュレーション・プレーヤーを経由、UC-win/Roadへ繋ぐ際にデータを変換する機能を研究室で開発しています。
同研究室では現在、UC-win/Roadを前述の乗換センターにおける歩行者行動の3次元(3D)表現のほか、災害時の避難シミュレーションの研究にも活用しています。
それまで、2Dによる歩行者行動の表現には限界を感じており、3Dで正確に再現可能な可視化ツールが求められていました。その意味で、3DSファイルを容易に取り込むことが出来たことは大きい、とハン・ミョンジュさんは振り返ります。
また、キム・ヒョンボム氏はその際にCADのレイヤがそのまま使えるため扱いやすく、色の変更や各フロアにいる歩行者をグルーピングする機能などもそのまま適用できる点をメリットとして列挙。その上で今後は、2012年に開催予定のヨス(Yeosu)EXPOのような10万人超とも言われる大規模な人の動きについても、UC-win/Roadを使って取り組んでいきたいとの考えを示します。
さらにハン・ミョンジュさんは、研究室では「道路と鉄道を比較して道路の方がどう優れているか」といった評価、あるいは信号体系の効果などについての研究も進めつつあると述べます。「(そのようなケースでのUC-win/Roadの利用を視野に)歩行者のモデルをクリックするとその属性が表示されるといった、歩行者シミュレータ向きの機能も強化して戴けたらと思っています」
お忙しい中、取材にご対応ご協力いただいた関係者の皆様に改めてお礼申し上げます。 |
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▲ソウル大学環境大学院 交通管理研究室
イ・ヨンイン(Lee Young-Ihn)教授 |
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▲ソウル大学環境大学院 交通管理研究室
博士課程 ハン・ミョンジュ(Han Myung-Joo) |
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▲ソウル大学環境大学院 交通管理研究室
修士課程 キム・ヒョンボム(Kim Hyung-Bum) |
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▲ソウル大学環境大学院校舎 |
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▲交通管理研究室会議室 |
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▲駅中での歩行シミュレーション結果 |
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▲駅の出入り口周辺道路での
歩行シミュレーション結果 |
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▲駅出入り口周辺商業施設での
歩行シミュレーション結果 |
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共催セミナー
韓国主要交通道路研究機関、大学と共催で“交通工学分野におけるVR技術活用セミナー”を開催いたします。
交通工学、道路設計、歩行環境、交通管理、運転者形態などの各専門分野の研究者の方々からの発表と提案、フォーラムエイトからは、VR技術の最新情報とUC-win/Roadの講演を行います。
- 開催日時 : 2010年 7月 12日(月) 14:00〜18:00
- 開催地 : 韓国 KICT(建設技術研究院) 会議室
- 主催 : KOTI(韓国交通研究院)、KICT(建設技術研究院)、韓国道路学会、FORUM8
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