ユーザ紹介第87回 |
東日本高速道路株式会社 |
管理事業部 ETC推進課 |
ETC Management Division, Operation Div., East Nippon Expressway Co., Ltd. |
東日本高速道路株式会社のホームページ
http://www.e-nexco.co.jp/ |
ETC普及からそれに伴う交通安全対策をカバー、現在は無料化社会実験に力
―高速道路関連社会貢献協議会の協力の下、安全性向上アプローチにハイウェイドライビングシミュレータ活用 |
「高速道路 無料化社会実験」が去る6月28日からスタートしました。これは、高速道路の活用を通じて物流コストや物価を引き下げ、地域経済を活性化させることを狙いに、高速道路を原則無料化するもの。今年度は、全国の高速道路網のうち約2割に相当する区間が実験区間として設定され、地域への経済効果、渋滞や環境への影響について把握するとしています。実験期間は来年3月31日まで。当該区間を走行するすべての自動車がその対象となります。
今回ご紹介するのは、この社会実験を当面の重要なトピックと自ら位置づける東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)。その中で、ETC(有料道路自動料金支払システム)の普及とその利用に際しての交通安全対策を主要業務とする「管理事業部・ETC推進課」に焦点を当てます。
同課ではそれまで、交通安全のためのさまざまな対策を試行。さらに有効かつ新たなアプローチを探る中で、ドライバーが高速道路走行中に遭遇し得る多様な危険事象について3次元バーチャルリアリティ(3D・VR)技術の利用により模擬体験するドライビングシミュレータ(DS)の開発が3年ほど前から着想されていました。
それが2009年度に、高速道路関連社会貢献協議会(事務局:財団法人高速道路調査会)の協力を得て具体化。安全運転の啓発を目的とし、中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)および西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)と連携して活用する「ハイウェイドライビングシミュレータ」の開発・運用へと至っています。
そこで、同DSの導入検討からその開発プロセス、その後の利用を通じ深く関わられているNEXCO東日本管理事業部ETC推進課課長代理の三石晃氏および同課係長の西村徹氏にお話を伺いました。 |
行政改革大綱(2000年に閣議決定)や特殊法人等整理合理化計画(2001年に閣議決定)などを経て、2004年に道路関係四公団民営化関係四法が成立。同法に基づき2005年、道路関係四公団(日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団)が廃止され、それらの業務は独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構および6高速道路株式会社に引き継がれました。
そのうちNEXCO東日本は、NEXCO中日本およびNEXCO西日本とともに旧・日本道路公団における高速道路の建設・管理・料金徴収などの業務を継承しています。
NEXCO東日本のWebサイトによると、同社事業エリア内の高速道路等の営業延長は3,575km、インターチェンジ(IC)は400ヵ所、サービスエリア(SA)およびパーキングエリア(PA)の休憩施設は305ヵ所(いずれも2010年4月時点)に上ります。
本社(東京都千代田区)を中心に北海道・東北・関東・新潟の4支社、さらに各支社の傘下に複数の管理事務所や工事事務所を展開。2,225名(2010年3月末時点)の社員がそれぞれ配置されています。
同社の事業は、前述した高速道路の管理運営および建設のほか、休憩施設を通じたサービスの提供、高速道路に関連した各種経営資源の有効活用、高速道路の管理運営・建設に関する技術の開発とそれらを活用した海外の高速道路整備への貢献、環境配慮への取り組み、など多岐にわたります。
今回ご紹介する管理事業部は基本的に、既に出来上がっている高速道路の維持管理や通行料金の収受に関する業務を担当。その中でETC推進課は、ETCのいっそうの普及とETCレーン走行に伴う交通安全対策などを担うべく、2007年3月1日に設置されました。
そうした活動の一環として同課では、独自にETCの安全な走行方法(「ETC安全5則」)をまとめています。これは、(1)ETCカードを確実に挿入!
有効期限にも注意! (2)ETC利用可能なレーンを確認! (3)十分な車間距離を! (4)時速20km以下で進入! (5)路側表示器の表示内容・ETCバーの動作を確認!
― の5項目から構成。「入口ETCレーンで開閉バーが開かなかった場合」や「ETCの開閉バーを押し開けて通過してしまった場合」といったもしもの場合の対処方法などと併せてアピールすることで、ETCの安全走行に関するドライバーの理解をより確実にしてもらおうと努めています。
さらに、冒頭で触れた社会実験に当たっては、ともに無料でありながらETC車と非ETC車とでETCレーンの通行方法が異なることなどに注目。それらが交通安全上の問題に繋がらないよう取り組んでいます。
■ 交通安全の啓発にUC-win/RoadベースのDS開発へ
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ドライバーの安全確保を重視する観点から、NEXCO東日本ではさまざまな啓発活動や対策を実施しています。しかし、注意喚起の標識や看板、あるいはより高度な中央分離帯の設置といった対策を講じたとしてもその効果には限界もあり、新たな切り口による安全性向上や危険性抑制のアプローチが求められていた、と三石晃氏は振り返ります。
そうした一つの解が、従来型の啓発や広報によるのではなく、ドライバー自身の認識を高めるというものでした。例えば、「一旦事故に会えば、同じ過ちを二度としないのでは」と考えられました。とは言え、実際の車を使って事故を経験してもらうというわけにもいかない。ちょうどその頃、当社営業担当者からの3D・VR技術に関するご案内と前後して、高速道路調査会の関係者からも当社のDSがそこで使えるのではとの情報がもたらされたと言います。ただ、その発想は具体化されないままに時が経過していました。
それが2009年度になって、高速道路調査会に事務局を置く高速道路関連社会貢献協議会の協力により、高速道路の交通安全に資するDS開発の取り組みが動き出しました。
その際にシステムのポイントとされたのは、まず高速道路をどこまでリアルな映像に再現できるかということ。そのほか、本当に運転している感覚を体感できるハード機能、よりコンパクトで持ち運びが可能なシステム、運転した人の行動のデータ化とそれの交通安全対策への活用、作成したVRデータおよびシステムの継続的な更新への対応などが求められた、と西村徹氏は挙げます。
同年6月の公募を受けて4社・グループが応募。8月には、UC-win/RoadをベースとするDSを提案した当社が受注するに至りました。
その後、当社はNEXCO東日本および同協議会関係者との打ち合わせを経て、高速道路走行中のドライバーが遭遇する可能性のある危険事象を抽出し、DSに設定。また、複数関係者に乗り心地などを確認してもらいながら調整を重ね、2010年1月末までにシステムを一通り完成。3月1日の納品まで微調整が続けられました。
この「ハイウェイドライビングシミュレータ」では、実在する道路や橋梁、トンネル、SA、料金所などの図面データを利用し、架空の建物などを配置した約15kmに及ぶモデルを作成しています。そこに、(1)ETC開閉バーへの接触 (2)先行停止車両の追突 (3)道路付属物への接触 (4)広場での接触((1)〜(4)は料金所関連)、(5)先行停止車両への追突 (6)視界不良 (7)雪・雨によるスリップ (8)前方割り込み(9)前方落下物対応 (10)渋滞後尾の事故 (11)渋滞中事故 (12)車線規制((5)〜(12)は本線関連)、(13)横断歩行者への接触 (14)退出車両との接触 (15)スマートIC利用車両((13)〜(15)は休憩施設関連)、(16)合流タイミング((16)は本線合流部関連)、(17)速度超過によるカーブ逸脱 (18)ランプ渋滞((17)(18)は本線分流部関連)、(19)逆走((19)は本線等関連)
― という19項目の体験運転事象が設定されました。
また、各事象を組み合わせ、1コース約3分間となる3種類のシナリオを用意。利用者がコースを選びDSで体験した後、その走行ログを分析した体験運転の診断を通じ、安全運転の啓発を図ろうという仕組みです。さらに体験者による多様な運転行動や車両挙動のデータは蓄積され、以後の安全走行に関する検討に活用されることになります。 |
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▲NEXCO東日本管理事業部ETC推進課の皆さん |
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▲ETCの安全な走行方法「ETC安全5則」 |
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▲高速道路上での危険を伴う19の危険事象を再現 |
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▲ETC推進課課長代理 三石晃氏 |
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▲ETC推進課係長 西村徹氏 |
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▲ハイウェイドライビングシミュレータ |
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▲佐久バルーンフェスティバル |
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▲大人の文化祭2010(長野) |
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交通安全対策への活用という観点からは、出来るだけ多くのドライバーにこのDSを利用してもらうことが重要です。そこで納品後、DSは株式会社高速道路総合技術研究所(NEXCO総研)に保管。NEXCO東日本・NEXCO中日本・NEXCO西日本の各社が行うイベントを通じ、随時活用する形となっています。3月15日にNEXCO東日本が実施したDS乗車会イベントを皮切りに、既に各社が開催するさまざまなイベントで運用されています。
併せて、最初に設定したコースや19の危険事象、3種類のシナリオについてはもとより随時更新・拡張する予定で、新しい要素や利用者の興味を引くような展開を図っていきたいとしています。
今回のDS開発とその運用を通じ、西村徹氏は実際の高速道路のデータに基づくリアルな再現映像の中を走行体験できるため、ETCレーンやスマートICなどを実際に通行したことがないドライバーにどのようなものかを体感してもらえるメリットを実感。ただ、ブレーキやハンドリングなどを正確に追求し過ぎるとシミュレータ酔いを来すこともあり、いかに乗り心地を高めるかは今後の課題の一つと位置づけます。また、交通事故の現場など実際には再現できないような分野におけるシミュレーションの可能性にも期待を示します。
一方、三石晃氏は同DSの機動力に加え、不特定多数の一般ドライバーによる運転行動および車両挙動データを交通安全対策の検討に繋げられる機能に注目。その意味で、現状はそれらログデータの収集・蓄積が行われている段階であり、それらをどう有効活用していくかを今後詰める必要があると言います。
「私たち道路管理者側で有効と考えた対策が、実はドライバーにその意図が通じていないということもあるかも知れません。そのような問題に対しても、そのログデータを解析することで適正に判断できるのではと思っています」
お忙しい中、取材にご対応ご協力いただいた関係者の皆様に改めてお礼申し上げます。 |
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