●はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。フォーラムエイトは1980年代から様々な土木構造物用の設計ソフトや解析・シミュレーションソフト、そしてバーチャルリアリティーソフト、UC-win/Roadなどを開発してきました。
そして各ソフトは、UC-win/RoadやBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフトのAllplan、3DCAD Studio®といった3Dソフトと連携し、フォーラムエイト製品群の中で一大ネットワークを構成しています。
こうした製品間のデータ連携は、構造物の建設に先立つ設計打ち合わせから地盤の検討、設計、施工に至る建設プロジェクトの各フェーズを時間軸の面からもつないでいます。製品間や建設フェーズ間でのデータ連携は、国土交通省が2012年度から始めたCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)や、2016年度から始まったi-Constructionの考え方とぴったり合うものです。
これは偶然ではありません。フォーラムエイトの経営陣は、既に1980年代からCIMやi-Constructionのような建設ワークフローを想定し、製品開発にもこのような思想を持って臨んできたのです。
しかし、ひと昔前までの建設業界は、CADやインターネットが使われ始めたとは言え、まだまだ紙図面ベースの設計・施工が中心でした。3次元モデルやデータ連携などは“時期尚早”ということで、製品開発を行ってもなかなか日の目を見なかったこともありました。
それが今、CIMやi-Constructionの時代を迎え、フォーラムエイトの製品は、自社内だけでなく、BIMやCIM用のデータ交換標準「IFC」や「LandXML」などにより、他社ソフトともデータ連携を強化し始めました。
さらに、VR(バーチャルリアリティー)元年と言われる今年は、実物大3D映像が見られるHMD(ヘッドマウントディスプレー)やドローン(無人飛行機、UAV)、ドライビングシミュレーターといったハードデバイスとも連携することで、BIMやCIMの世界を広げる大きな原動力として、フォーラムエイトに期待が集まっているのです。
●CIM技術セミナーとは
フォーラムエイトは今年、自社のソフト製品やハード製品の位置づけを再構築し、他社製品との連携も行いながらBIM/CIMやi-Construction市場に向けて本格的な展開を行っています。
現在、フォーラムエイトでは、「フォーラムエイトが広げるBIM/CIMワールド」という本を執筆・制作中で、2016年11月に発行する予定です。フォーラムエイトのUC-win/RoadやUC-1シリーズといった主力ソフトに、ドライビングシミュレーターやドローン、自動運転制御などのハードを組み合わせることで、BIMやCIMの活用範囲を図面やCG作成以外の用途にまで拡大させることを狙っています。今回のCIM技術セミナーも、本の構成に沿った内容になっています。フォーラムエイトのソフト、ハード製品を、CIMやi-Constructionのワークフローの中でどのように生かせるのかを、豊富な実例をもとに、実務者の視点で解説します。
セミナー開催日は、土木学会の土木情報学委員会 建設3次元情報利用研究小委員会が全国10都市で開催する「CIM講演会2016」と歩調をそろえました。そして第1回が7月12日、フォーラムエイト東京本社で行われました。
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▲フォーラムエイト東京本社で開催されたCIM技術セミナー |
●セミナーの内容
午後1時30分に始まったセミナーは、フォーラムエイトの社員4人が講師を務めました。自己紹介のあと、執行役員でシステム営業Groupマネージャーの松田克巳さんが「FORUM8 IM&VRソリューションによるCIM、i-Constructionサポートについて」というテーマでフォーラムエイトの事業や歴史について語りました。
フォーラムエイトではBIMやCIMのソリューションを「IM」(アイエム。Information Modeling)と統合して呼んでおり、その結果を表示するプラットフォームとして、UC-win/Roadを位置づけています。
現在、3Dモデルデータを駆使したVRやFEM(有限要素法)、構造物設計、クラウドサービスなどを展開していますが、既に1998年には3Dによる詳細配筋モデルをもとに図面まで描ける橋脚設計ソフトを開発していたことを、デモンストレーションしながら紹介しました。
当時は設計者自身が構造物の図面を描くことはありえないということで、市場ではあまり受け入れられない面もありましたが、今のCIMの考え方には、ぴったりです。つまり、フォーラムエイトは18年前に、CIMソフトを実現していたことになります。
現在のソフトでは、さらに3Dの表現力がアップされました。また、BIM/CIMのデータ交換標準であるIFC形式によって、施工用のソフトに構造物モデルを書き出す機能などが追加され、他社ソフトとの連携も一層強化されています。さらに、3Dプリンターやドローン、ドライビングシミュレーター、そして実物の建設機械を遠隔操作するマンマシン・インターフェースまで、連携は広がってきました。
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▲土木設計ソフトUC-1シリーズ製品に
追加された3D配筋シミュレーション機能。
干渉チェックや3次元CADにデータを渡せる |
「フォーラムエイトのソリューションは、もともとBIMやCIMと同じような発想で開発されてきたのです」と、松田さんはフォーラムエイトの歴史や3D・VRシミュレーションコンテスト・オン・クラウドの入賞作品の事例などを交えながら語りました。
(1)CIMソリューションの活用事例
続いて、東京VRサポートGroup主事の辰己正芳さんが「CIMソリューション活用事例とデータ交換事例」と題して講演しました。フォーラムエイトのCIMソリューションを使ってVR、干渉チェック、自動数量集計、構造解析、施工シミュレーション、IFC・LandXMLによるデータ交換をソフトを使いながら説明しました。これらの説明は、バラバラに行うのではなく、道路の設計から施工、維持管理という流れに沿って、UC-win/Roadを軸にしてデータを連携しながら行うストーリーで進められました。 まずはUC-win/Roadを使って、道路を建設する現場の地形モデルを作ります。ソフトにも日本全国の50mメッシュ標高などのデータが内蔵されていますが、さらに詳細な5mメッシュ標高などの情報を持つ数値地図2500m(空間データ基盤)などを読み込んで、精密な地形モデルを作ることができます。
UC-win/Roadの地形モデルは、Land XML形式で書き出して、UC-1シリーズで地盤解析や土石流解析を行い、その結果をUC-win/Roadに戻してリアルなCG動画で見ることができます。また、他社のソフトで地形モデルを活用することもできます。この柔軟なデータ連携こそが、フォーラムエイトのCIMソリューションの特徴でしょう。さらに航空写真を読み込んで地形モデルにテクスチャーを付けると、とてもリアルな地形が出来上がります。
この地形モデル上にBIM/CIM対応の3次元CAD、Allplan、UC-1シリーズで作成した構造物の3Dモデルを読み込んで配置すると、地形と構造物が合体した3Dモデルができます。この3Dモデル上で、橋脚のコンクリート打設工程を時間的に分解して、アニメーションによる施工シミュレーションを行うこともできるのです。
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▲UC-win/Roadを軸として各ソリューションのデータ連携を行う
壮大なストーリー |
(2)VRシステムによるCIMの可視化
辰己さんの話は「CIMモデルのVRシステムにおける可視化事例」として、UC-win/Road上で津波や氾濫、交通流さらには風解析結果や3Dレーザースキャナーで計測した点群データまでをわかりやすく見える化する方法の解説に続きます。例えば、工事現場から発生する騒音解析は、UC-win/Roadの中で完結させることができます。現場内の重機の3Dモデルに騒音源の設定を行い、現場境界線上に騒音を見える化するための平面を設定します。すると解析された騒音の大きさ分布が平面上に表示されるのです。
津波や洪水、土石流といった自然災害の解析結果も、UC-win/Roadのモデル上で見える化することができます。町のどの範囲が浸水するのか、浸水した町はどのような状態になるのかが、まるで映画を見るようにわかります。
この日のプレゼンテーションでは、ソフトによる結果を、UC-win/Road上に表示した例を紹介しましたが、他社の3Dソフトで作成したデータも同様にインポートしてわかりやすく可視化することができます。
(3)CIMモデルを使った解析
15分間の休憩をはさんで、「CIMモデルの解析システムにおける活用事例」と題し、UC-1第1開発グループ 解析支援チーム主事の富岡和之さんによる講演が続きました。
その内容は、動的非線形から構造、地盤、エネルギー、騒音、火災、避難、洪水、津波解析まで、多岐にわたります。例えば、地盤のFEM(有限要素法)解析は、入力データとなる複雑な地形や地層を3Dデータ化するのにとても手間ひまがかかります。その入力データとしてCIMモデルが利用できると、解析は非常に楽になります。これは3Dの入力データが必要となる他の解析でも同様です。
セミナーでは3次元弾塑性地盤解析や浸透流解析を行うGeoFEAS VGFlowというソフトを例に、CIMモデルを使って解析を行うワークフローを紹介しました。UC-win/Roadで作った地形モデルを、LandXML形式で書き出し、GeoFEAS VGFlowに読み込んで入力データとして活用するという流れです。
BIMやCIMのモデルを使った解析にはこのほか、雨水流出解析・氾濫解析ソフトウェア、xpswmmを使った洪水解析や、避難解析プログラム、EXODUS/SMARTFIREを使った火災時の避難シミュレーション、建物エネルギーシミュレーションプログラム、DesignBuilderを使ったエネルギー解析なども可能です。
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▲UC-win/Roadで作った地形の3Dモデルを
GeoFEAS VGFlowに読み込むと、入力データの
作成がスピーディーに行える |
(4)設計ソフトCIMモデルを自動作成
続いてIM&VRインストラクターの武田晃奈さんが、「設計ソリューションからのCIMモデル連携事例」というテーマで講演しました。
土木構造物の設計を行うUC-1シリーズなどを使うと、鉄筋量や断面力の照査を行って設計したとき、ソフトの内部では構造物の3Dモデルが出来上がっています。そのデータをCIM対応の3次元CADソフトで読み込むと、CIMモデルとして使えます。鉄筋を1本1本配置したり、コンクリートの形状や寸法を新たにモデリングすることなく、CIMモデルを自動的に作成することができるわけです。
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▲UC-1でラーメン橋脚を設計しているところ |
▲設計後は、このような配筋付きの
3Dモデルが既に出来上がっている |
例えば、UC-1「橋脚の設計・3D配筋」で橋脚を設計すると、設計条件を満たす鉄筋量や鉄筋の位置を3Dモデル化したデータが同時に出来上がります。その3DモデルをBIM/CIMソフトで読み込めば、そこから詳細設計をスタートできるので、とても効率的です。
3D配筋CADというプログラムを使うと、配筋同士の干渉チェックや干渉の回避、鉄筋の組み立て順検討などを簡単に行えます。また、BIM/CIM対応の3次元CAD、AllplanはUC-1シリーズで作った3Dモデルの属性情報をより多く取り込むことができます。同様の機能は、橋台の設計・3D配筋やBOXカルバートの設計・3D配筋、擁壁の設計・3D配筋、マンホールの設計・3D配筋など、UC-1シリーズの多くのプログラムが持っています。
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▲ラーメン橋脚の設計で作成した橋脚の3Dモデルを
BIM/CIM対応3次元CAD、Allplanに読み込んで
詳細設計を行ったところ |
▲UC-1シリーズのプログラムで設計すると、様々な構造物の
3Dモデルが自動的に作れる |
(5)ハードデバイスとの連携
フォーラムエイトのBIM/CIMソリューションの大きな特徴は、ソフト同士だけではなく、様々なハードとも連携することです。例えば、ドライビングシミュレーターや鉄道シミュレーターから、プロジェクション・マッピング、ドローン(無人機)、そして自動運転車まで、BIM/CIMのモデルを他業界でも活用できるソリューションが整っているのです。
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▲UC-win/RoadのUAVプラグインを使った制御システム(左)と飛行ルート計画(右) |
●イエイリコメントと提案
フォーラムエイト製品は、もともとCIMと同じような発想で開発されてきたため、ソフトの内部で3Dモデルが構築される仕組みになっています。これまでは成果品として設計計算書や2次元図面しか求められなかったため、3Dモデルはソフトのバックヤードに隠れているだけでした。
それが今は、BIM/CIMの時代となり、わかりやすい3Dモデルが成果品としても求められるようになりました。しかし、一般のBIM/CIMソフトは操作が難しく、複雑な土木構造物の形状や鉄筋を3Dモデルで作るのに大変な手間ひまがかかっています。 そこで、フォーラムエイト製品が内蔵していた3Dモデルを、IFC形式などBIM/CIM用のデータ交換標準で書き出せるようにしたことで、構造物の諸元入力から鉄筋量などの設計、そして3Dモデルの作成までを効率的に行えるようになったのです。一般のBIM/CIMソフトでは3Dモデルを作ってから、そのデータを解析・シミュレーションでいかに利用するかが課題となっていますが、フォーラムエイト製品はその逆に、設計の副産物としてBIM/CIMモデルが得られるのです。
こうした特徴を生かすことで、多くの設計者や技術者が3Dモデルの作成にかかわれるようになり、BIM/CIMの裾野を広げるソリューションとして、今後、注目されていくのではと思います。
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