●はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。鉄筋コンクリート構造物の建設に欠かせない鉄筋、強度としての太さは考慮しても、配筋設計では太さや曲率はあまり考えないことが多かったのではないでしょうか。
ところが、最近のコンクリート構造物は以前よりも鉄筋量が多くなりました。従来の2次元CADで配筋設計を行うと、鉄筋同士が干渉している場所を見つけるのが困難な場合もあります。また、鉄筋量が多い梁と柱の接続部などでは、太さや曲率を考慮しないと、干渉してうまく納まらないことも増えてきました。
そこで最近、配筋設計で使われ始めたのが、3次元CADです。3次元で鉄筋を可視化することにより、平面の図面に不慣れな技術者でも鉄筋の配置が把握しやすく、鉄筋同士がぶつかっている部分も、3次元CADの「干渉チェック機能」を使うことで瞬時に発見できます。さらに、3次元CADで設計した配筋から、2次元図面を作ることもできます。
一方、3次元CADの操作は2次元CADよりも難しく、これまでの設計手法に慣れた技術者は、新たに学ぶ必要があります。また、詳細な配筋データを作るときは、2次元CADよりも時間がかかることもあります。
しかし、2012年度から国土交通省は土木構造物の設計・施工に3次元CADを活用するCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)を導入し、2016年度からはi-Construction(アイコンストラクション)政策により、設計から施工、検査までの一連の業務を、3次元データで効率的に進めることを推進しています。
そのため、配筋設計も含めて、3次元CAD化の動きは後退することはないでしょう。
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▲3D配筋CADで作成した配筋の3次元モデル。2次元
CADよりも鉄筋の空間的な配置が分かりやすい |
●3D配筋CADとは
フォーラムエイトが開発した3D配筋CADは、鉄筋コンクリート構造物の躯体と主鉄筋、配力筋、組立筋などの鉄筋を3次元でモデル化する3次元配筋CADプログラムです。断面形状を押し出して立体の躯体を作り、躯体の各面に対して縦鉄筋や横鉄筋、組立筋を配筋できます。
鉄筋同士の干渉チェック機能を備えており、干渉個所を設計段階で発見し、回避したり、施工手順のシミュレーションを行ったりすることもできます。
出来上がった3次元の配筋モデルから、一般構造図や配筋図、加工図、鉄筋表などの2次元図面を作れます。さらにIFCやAllplan、3DS、RFCの各形式で配筋の3Dモデルを書き出せるので、フォーラムエイトの3DCAD
Studio®やUC-win/Road、Allplan、UC-Drawなどのソフトに読み込んで設計を進めたり、他社のBIM/CIMソフトで活用したりすることもできるようになっています。
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▲3D配筋CADで作成したコンクリート躯体と鉄筋 |
▲鉄筋同士の干渉も自動的に発見し、設計段階で
干渉を回避できる |
また、3D配筋CADにはクラウド版のアプリ「3D配筋CAD for SaaS」もあります。3次元の配筋モデルをAndroid™版のスマートフォンに入れて現場で見ることができるようにしたものです。
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▲Android™版のアプリ「3D配筋CAD for SaaS」 |
▲配筋の3Dモデルと図面をスマホで参照することが
できる |
使い方はアプリを起動して、サーバーにログインします。 そして配筋の3Dビューを見たり、図面と3Dモデルを比較したりできるほか、現場で配筋の写真を撮って保存することも可能です。配筋図や配筋の3Dモデルを現場の鉄筋と比べながら、施工管理に使うことができます。
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▲現場の配筋(左)と配筋の3Dモデル(右)を比較しながらスマホで配筋検査が行える |
●セミナーの内容
7月26日に開催されたセミナーは、フォーラムエイト宮崎支社からテレビ会議システムで札幌、東京、名古屋、大阪、CRAVA media Labの6会場をつないで行われました。講師を務めたのはVR開発Groupの首藤阿千雄さんです。
午後1時30分から、土木や建築分野で3次元CADが使われ始めた背景や3D配筋CADの概要の説明があり、2時からいよいよ3D配筋CADを使った実習です。 まず、基本操作を学んだ後、躯体や配筋の3Dモデルを作成。図面の作成や干渉チェックを実際に行います。
休憩をはさんで、今度は配筋の3DモデルをUC-Drawに読み込んで図面を編集するというスケジュールです。
それでは3D配筋CADを実際に立ち上げてみましょう。画面は大きく3つの部分に分かれ、上にメニュー、左側に躯体や鉄筋などのリスト、右側に3Dビューが配置されています。
メニューではファイルの読み込みや保存、画面の切り替えを行い、リストは3Dモデルに含まれる項目一覧の表示や追加、編集、削除を行います。3Dビューは配筋3Dモデルの表示や視点位置の操作を行います。配筋データを読み込むと、次のように表示されました。
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▲7月26日に全国6会場をネット中継して開催された
3D配筋CADセミナー。写真は大阪支社の様子 |
▲3D配筋CADの画面構成 |
3D配筋CADの基本操作
3次元CADをうまく使いこなすためには、3Dビューで表示する視点の位置や角度を自由自在に動かせることが必要です。よく使う視点の回転移動はマウス、平行移動はShiftキー+マウスドラッグ、拡大縮小や前後の移動はマウスホイールで行えます。
このほか、メニューバーには視点位置を保存したり、鉄筋に沿って視点を移動したり、背景色を見やすい色に変えたりする機能などが用意されています。
コンクリート躯体を表示するためには、メニューバーの「躯体」をクリックします。この画面では、躯体の配置や複製、削除などの編集が行えます。躯体の表示方法はワイヤーフレームのほか、塗りつぶしや透過、非表示に切り替えることができ、作業に便利なものを選べます。
続いてメニューバーの「鉄筋」をクリックしてみました。すると画面左側のリスト欄に様々な鉄筋の名前が鉄筋色とともに表示されました。右側の3Dビューのなかで、それぞれの配筋がどこにあるのかが、色を頼りに見つけることができます。
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▲鉄筋に沿って視点を移動する機能 |
▲鉄筋の表示画面。左側のリスト欄に、様々な
鉄筋の名前が色別に現れた |
メニューバーでは鉄筋の追加や複製、削除のほか、複数の鉄筋を一括再生成したり、鉄筋の位置を移動させたりすることができます。
メニューバーのさらに右側には、干渉チェックというコマンドがあります。この画面では鉄筋同士の干渉チェックや鉄筋と躯体のかぶり厚計算、干渉回避シミュレーション、施工手順のアニメーションでの確認、そして干渉チェック結果の出力などが行えます。
メニューバーの「図面」をクリックするとリスト欄には断面図や前面図、加工図・鉄筋表などの表示が現れました。
実際に3D配筋モデルを作ってみた
では、ここからは実際に3次元の躯体を作ってみます。3次元の立体を作るのは難しいというイメージがありますが、基本は2次元の断面形状を「X」「Y」の座標で入力し、それを奥行き方向に伸ばすという手順です。
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▲まず、X、Y座標で断面形状を入力 |
▲それを軸方向に引き伸ばし、3次元の躯体を作る |
続いて躯体の中に鉄筋を配置していきます。多数の鉄筋を1本ずつ配置していくのは骨が折れますが、3D配筋CADは鉄筋のかぶり厚や角度、配筋のピッチなどを入力して鉄筋を自動発生させる「パラメトリックモデリング」の手法で、効率的に配筋できるようになっています。
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▲配筋ピッチの入力画面 |
▲自動生成された配筋 |
ここで先ほどの干渉チェック機能を実行してみます。鉄筋同士の干渉のほか、鉄筋のかぶりが所定の厚さを満たしているかについてもチェックできます。鉄筋の干渉部分は、一覧表形式でリスト表示されるほか、3Dビューでも確認することができます。干渉部分は回避ツールなどを使って修正しておきます。
この後、図面のメニューを使って配筋図や加工図を作成したり、フォーラムエイトのソフトであるUC-1「擁壁の設計・3D配筋」で作成したデータを3D配筋CADに読み込んだりする実習を行いました。
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▲3Dビューで見た鉄筋の干渉部分 |
▲鉄筋加工図の作成 |
3D配筋CADは今後、どうなるか
フォーラムエイトは、純国産の土木用3次元CADエンジンを搭載した「3DCAD Studio®」という製品も発売しています。2008年〜2012年にかけて、関西大学が中心となって行った三次元CADエンジン開発プロジェクト(カイザープロジェクト)に、フォーラムエイトも参加し3次元CADエンジンの本開発を担当したのです。
そのCADエンジンに、フォーラムエイトは独自のユーザインタフェースとデータ構造部分を開発して組み合わせ、製品化しました。
3D配筋CADは、今後この3DCAD Studio®と統合されるとともに、フォーラムエイトのUC-1設計シリーズと双方向でのデータ連携やIFC出力機能の拡張、複雑な形状の編集機能などが追加され、CIMへの対応力をさらに高めていく予定です。
また、3D配筋CAD for SaaSは、AR(拡張現実感)機能を追加し、実際の配筋と設計の配筋モデルを重ねて確認できるようにするなど、さらに機能を進化させて行く予定です。
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▲2012年12月18日に東京で行われたカイザープロジェクトの
発表会には約200人が詰めかけ、注目を集めた |
●イエイリコメントと提案
今、日本の土木業界では、i-ConstructionやCIMの推進で、設計や施工の3次元化が急速に進んでいます。配筋を3Dモデル化して干渉のない設計を行うことも、重要なテーマです。しかし、3次元CADを使って1から配筋モデルをスクラッチビルドで作っていくのは、あまり効率的とは言えません。
そこで注目したいのが、フォーラムエイトのUC-1シリーズなどに搭載された配筋のパラメトリックモデリング機能です。配筋の径や本数、ピッチなどを入力すると自動的に橋脚などの構造物の内部に、配筋を行い、設計計算によって応力照査してくれるものです。
3D配筋CADは、これらのソフトで自動生成された鉄筋の3次元モデルを読み込み、そこから修正作業などが行えるのでとても効率的です。そして3次元CADがあまり使えない技術者でも、鉄筋の3次元モデルを作って干渉チェックなどが行えるのは重要です。
また、SaaS版のアプリも現場での配筋検査を効率化してくれるツールとして期待できます。現在は図面やコンベックスを持って、現場の配筋と比較しながらチェックしていますが、短い時間で設計と異なっている部分を探すのは大変です。
もし、AR機能で配筋の3Dモデルと現場の鉄筋を重ねて見られるようにすると、鉄筋の本数はもちろん、位置や寸法の違いなどもすぐに発見できるようになるでしょう。
i-Construction時代の鉄筋コンクリート構造物の設計・施工を担うソフトとして、3D配筋CADや3DCAD Studio®の存在感は、今後、ますます高まっていくのではないでしょうか。
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