避難誘導サイントータルシステムの基本理念
前号で取り上げた『安全安心のピクトグラム』の姉妹本[避難誘導サイントータルシステム] の基本理念について、補足説明させていただく。
2016年6月、筆者は「丸の内の総合防災:避難誘導サイン環境の提案1」と題する三菱地所宛の提案書で、目指すべき指標を以下のように説明した。
“非常を日常の一部と捉えて市民運動化する。日常環境が避難誘導サインを含む安全で安心なコミュニケーション環境に進化するプロトタイプの開発を、日本の表玄関・丸の内街区で最初に具体化し、全国のモデルケースとして発信する提案である。”
“サインによるコミュニケーション環境”の意味するところがここで重要になる。筆者の中でその認識と実践が具体化したのは1970年代はじめ、東京・天現寺の慶応義塾小学校の幼稚舎であった。
幼稚舎100周年記念事業として建築家谷口吉郎設計の記念棟が竣工し、日本で最初の新しい学習環境づくり“オープンプランスクール”に3年余りかかわった。それは壁のない教室とも言われ、全国の画一授業と異なり、児童一人一人の個性と能力を大切にするもので、教育行政にも影響を与えて、文科省のモデルスクールにもなった。
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■図1 コミュニケーション環境の構成要素 |
図1はサインによるコミュニケーション環境をデザインする押さえどころを整理したもの。環境の構成要素は、環境の持つ多様な意味を伝えるコミュニケーションメディアであるととらえて、現実の環境を整え直す。環境の部分と全体が環境の目的や個性に見合ってよく調和し、環境と人々の対話がよりよく育まれるようなアメニティの高い環境を目指す。アメニティとは、安全性、快適性、機能性、利便性など環境の質を測定する物差し。現代では文化性とともに重要な基準となっている。
上記のサインは、意味をもつ事物や状況のしるしであって、すべての生物が環境を読み取る情報の素子であると理解する。その結果、情報は生物の誕生と共にあり、生物としての生活主体が識別評価した状況関係であると理解できる。生物が自己の状況関係を、安全で安心できるように維持するための、最適な行動選択に役立つしらせであることが分かる。例えば単細胞のアメーバにとってサインは、熱、光、酸性、アルカリ性の4種類だけと言われる。けれども生殖のごとく、4種類のサインだけで我々の生命の誕生をも可能にしているのだ。
環境の86%を人は視覚によって見とっていると言われる。そこから導かれるコミュニケーション環境の方向は、「見とれる環境」の形成である。その先は、「感じ取れる環境」と言える。環境に必要な意味を付加することが重要なのではない。環境自体をサイン化すること、つまり“サイン環境”を創り出すことが肝要となる。その第一歩を丸の内総合防災で提案した。
図1は環境を種類、機能、デザイン要素の3側面から、7種類に分類してデザイン作業を組み立てやすくしている。またコミュニケーション環境の設計基準として、設計上の主体をどこに置くか、サインの個性や造形の効果などがそれぞれ柱となる。
ビジブルサインはピクトグラムなどを効果的に使って環境を感覚的、無意識的、総合的に捉えやすくしたもの。施主、設計者、施工者、行政・管理運営者など主体の置きどころは、やはり利用者主体を優先すべきとした。
国際出版『サインコミュニケーション(CI/環境)』(柏書房、各16,000円)と謳った筆者の共編著書で1989年と1993年、1000点に及ぶ世界のサインコミュニケーションデザインの事例を分類評価し、すぐれた作例を1/10に絞って紹介してきた。
丸の内街区の提案がこの図表の3辺を内包しているとみなせるなら、全国の「まちづくり」にとって必要なプロトタイプであり、非常口から避難場所に誘導するサインが空白な現状を克服するモデルケースと言えるかもしれない。その具体的誘導サインのデザインについては、フォーラムエイトパブリッシングが本年11月に刊行予定の姉妹本をご覧いただきたい。
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「安全安心のピクトグラム」
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■発 行:2016年11月
■価 格:\3,500(税別)
■出版社:フォーラムエイト パブリッシング
ピクトグラムデザインの適合性を精査し、
課題および改善点を学術的に模索する。社会の安心安全にかかわるサインについて網羅する専門書。 |
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『避難誘導サイントータルシステム
RGSSガイドブック』 |
■発 行:2017年秋(予定)
■出版社:フォーラムエイト パブリッシング
認識の啓蒙書として出版された『安全安心のピクトグラム』の太田氏者による、相補的な実践の手引書。2冊を活用し、各種災害に対応の「トータルシステム」によって、安全で安心な街づくりに貢献できる。 |
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