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vol.6
スポーツ文化評論家 玉木 正之 (たまき まさゆき)
プロフィール
 1952年京都市生。東京大学教養学部中退。在籍中よりスポーツ、音楽、演劇、
映画に関する評論執筆活動を開始。小説も発表。『京都祇園遁走曲』はNHKでドラマ化。静岡文化芸術大学、石巻専修大学、日本福祉大学で客員教授、神奈川大学、立教大学大学院、筑波大学大学院で非常勤講師を務める。主著は『スポーツとは何か』『ベートーヴェンの交響曲』『マーラーの交響曲』(講談社現代新書)『彼らの奇蹟−傑作スポーツ・アンソロジー』『9回裏2死満塁−素晴らしき日本野球』(新潮文庫)など。2018年9月に最新刊R・ホワイティング著『ふたつのオリンピック』(KADOKAWA)を翻訳出版。TBS『ひるおび!』テレビ朝日『ワイドスクランブル』BSフジ『プライム・ニュース』フジテレビ『グッディ!』NHK『ニュース深読み』など数多くのテレビ・ラジオの番組でコメンテイターも務めるほか、毎週月曜午後5-6時ネットTV『ニューズ・オプエド』のMCを務める。
公式ホームページは『Camerata de Tamaki(カメラータ・ディ・タマキ)
肥大化して、運営費の高騰に悩むオリンピック・パラリンピック大会は、
IOCが独自に発行する「仮想通貨」によって救われる?

2020東京大会の次は、2024年パリ大会。そこを本拠地としているサッカーチームのパリ・サンジェルマンは、昨年独自に仮想通貨の発行に踏み切った。いくつかのサッカーチームは選手もそれに続いているが、オリンピック(世界のスポーツ界)が仮想通貨に手を出す日は来るのか?

いよいよ来年2020年のオリンピック・パラリンピックが開幕する7月24日まで、あと1年と少し……という秒読み段階に入った。

はたして日本の夏の猛暑はどれほどの影響を与えるのか? 無事に2週間の競技を終えることができるのか? ……という心配もあれば、東京五輪招致の段階で動いた2億円以上のカネが「賄賂」の疑いがある、とフランス検察庁が捜査を続け、このままではJOC(日本オリンピック委員会)の竹田恆和会長が逮捕され、東京五輪は開催権をIOC(国際オリンピック委員会)に取りあげられるかもしれない、と危惧する人(政治家?)もいる。

日本の招致委員会から出たカネは、シンガポールにあったブラック・タイディング社というコンサルタント会社(幽霊会社という人もいる?)に振り込まれ、最終的に国際陸上競技連盟の元会長でIOC元委員でもあったラミン・ディアク氏という人物に渡ったのではないか……、それは招致活動の段階でアフリカのIOC委員の票の取りまとめを依頼した前金と成功報酬だったのではないか……と疑われているのだ。

前回のリオデジャネイロ・オリンピックで、招致委員会と組織委員会の会長として活躍したカルロス・ヌズマン氏も、フランス、アメリカ、ブラジル検察の合同捜査で、ラミン・ディアク氏に約2億円のカネを渡し、票の取りまとめを依頼したことが賄賂と認定され、逮捕されている。

だから……とはいえ日本の招致委から出たカネがディアク氏に渡ったという証拠はまだ出ていないらしく、竹田JOC会長も、それは正当なコンサルタント料と主張。また、フランス検察の動きは、日本の検察がカルロス・ゴーン元日産会長を逮捕したことに対する意趣返しで、東京の五輪開催には実質的には問題ない、と断言する人物もいる。

さらに、フランス検察庁の動きから竹田氏がJOC会長を辞めないと東京五輪開催が不可能になるかも……と過剰反応するのは、竹田会長をスポーツ界から追い出そうとする政治的策謀だ、と言う人物(JOCに近い人物?)もいる。

今年になって来日したIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長は、東京五輪の準備の状況について「何の問題もない」と太鼓判を押したことでもあり、おそらく東京2020オリンピック・パラリンピック大会は(よほどの天変地異でもない限り)99%確実に開催されるだろう(と言う人が今のところ多いようだ)。

が、東京大会以後のオリンピックを考えると、少々暗い気分に陥らざるを得ない。

というのは今回の東京大会もそうだが、昨今のオリンピックの開催運営費の異常なまでの高騰で、開催立候補都市が激減。2024大会に立候補したのがパリとロサンゼルスという、いずれも3度目の五輪開催を目指す2つの都市だけに限られてしまった。

そこでIOCは、とりあえず近い将来を安定させる作戦に打って出て、この2都市を2024年パリ大会、2028年ロサンゼルス大会に早々と決定したのだ。

これはある意味で、絶妙な決定だった、と言えるかもしれない。

パリ大会は、1900年の第2回大会、1924年の第8回大会以来3度目。オリンピック創設者であるクーベルタン男爵の故郷へ戻ることになるわけだが、それ以上に気になるのは、パリをホームタウンとしているサッカーの強豪人気チーム、パリ・サンジェルマン(PSJ)の存在だ。というのは、PSJは昨年、チーム独自に仮想通貨を発行したからだ。

この仮想通貨PSJを買ったサポーターは、選手との交流会に参加したり、選手のユニフォームのデザインや色を決める投票権を得ることができるという。今は、その程度だが、独自の仮想通貨PSJの使える範囲を徐々に延ばして、将来的にはチームのキャラクター・グッズはすべてPSJ通貨で取引するようにしたり、選手の契約金や年俸、チーム職員の給料も、将来的にはPSJ通貨を使用するようにしたいという。

サッカー・チーム独自の仮想通貨はPSJだけでなく、イングランドのプレミアリーグのアーセナルや、イベリア半島(スペイン)のイギリス領ジブラルタルのサッカーチームなども独自の発行を開始。FIFA(世界サッカー連盟)もその動向に注目しているという。

将来的には、FIFAが独自に仮想通貨を発行し、世界のサッカー界の取引を独自通貨で行うことは可能かどうかという調査を開始し始めた、という情報を口にする人もいるのだ。

世界のサッカー界で動くカネは莫大で、選手の年俸も数十億円単位。そこで、それを「信用」に、元ブラジル代表選手のロナウジーニョは「RSコイン(ロナウジーニョ・コイン)」を発行。ファンクラブで通用する通貨として、サッカー学校の設立資金集めを始めている。

またコロンビア代表のハメス・ロドリゲスや、ヴィッセル神戸入りしたスペイン代表のイニエスタなども、ファンクラブをネットワーク化して交流を深める手段としてトークン(限られた地域や組織だけに通用する疑似通貨)を発行し、サッカー関連事業の資金集めに利用しているという。

そこで、それらスポーツ関係の仮想通貨に、IOCも注目しはじめているというのだ。

もしもIOCが独自に仮想通貨(1オリンピック=千円?)を発行すればどうなるのか? オリンピックとパラリンピックの発展を願う世界中のスポーツマンやスポーツファンが、その通貨の値上がりを願って手に入れ、入場券やグッズの購入に利用し、スポンサーとの取引に利用し……となれば、「オリンピック・コイン」の価値は上昇。それによってオリンピック開催都市の赤字運営も解消。オリンピック開催立候補都市も増加し、未来のオリンピック・パラリンピックは今後ますます発展してゆく……。

と上手くいくかどうかはワカラナイ……が、仮想通貨の発行を始めたPSJの動向と、そこでの五輪開催には、「五輪経済」の新たな時代を迎えそうな気配もする。

しかもパリ大会に続くロサンゼルス大会は1984年の「実績」がある。冷戦時代のボイコット合戦と大会の肥大化(赤字)でオリンピックの危機を迎えたとき、2度目のロサンゼルス大会の組織委員長となった若き(43歳)ピーター・ユベロスは、徹底した経費節減(水泳会場は大学のプール、他会場もほとんどが既成の施設。選手村は大学の寮)と、新たな集金方法(1業種1社制によるスポンサー料の高騰、放映権料の値上げ、聖火リレーは希望するランナーに1km 千ドルで販売…等々)で、税金を1ドルも使わず黒字運営に成功。

そのロサンゼルスでの3度目の五輪開催となると、パリ大会での仮想通貨の動向や、SNSのさらなる発展、3D映像の進化……などを踏まえて、どんな「スポーツとカネ」の新たな世界が出現するのか、想像するのは難しいが、何か新しいコトが始まる予感に満ちている。

2020年の東京大会も、過去最高の科学技術イノベーションの進化した大会をめざしている。が、はたしてどれほどの進化が見られるか?

 
 

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