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ユニバーサル・コミュニケーションデザインの認識と実践

太田 幸夫
ビジュアル・コミュニケーションデザイナー、太田幸夫デザインアソシエーツ代表
特定非営利活動法人サインセンター理事長、多摩美術大学 前教授
LoCoS研究会代表、日本サイン学会理事・元会長、日本デザイン学会評議員
一般財団法人国際ユニバーサルデザイン協議会評議員
A.マーカスデザインアソシエーツ日本代表
 

Vol.7 国際相互依存状況の視覚化
   
アメリカは国家経済が潤沢であった1960年、国会決議に基づいて、環太平洋から西はトルコに至る世界37カ国から研究留学生をハワイ大学が隣接する国立イースト・ウエスト・センター(EWC:ホノルル)に招いて(日本からは現在までで5000名余)奨学金を与え、大学院教育・研究を支援してきた。

1978年には「国際相互依存の視覚化」(Visualizing Global Interdependencies)と呼ぶ新しい国際プロジェクト推進のため、世界から5人の専門家が研究員としてEWCに招聘された。日本からは筆者がピクトグラム・コミュニケーションのニュー・パラダイム実現のために招かれた。
そのプロジェクトの目指すところは、エネルギー、公害、コミュニケーション、食料、人口など、世界が直面する共通の課題に対処するため、広い視野からの国際協調が今日ほど望まれる時代はないとの認識を、従来の言語に代わる視覚イメージによって、各国の政策決定者に持ってもらうことにあった。

半年にわたる国際・学際的プロジェクトで筆者は、新しい視覚言語開発の立場から、特にエネルギー問題に焦点をあてた相互依存状況と国際協調の必要性をピクトグラムによって視覚化する作業を担当した。各国から地図・地理学、コミュニケーション理論、視聴覚教育、情報デザインなどの専門家が集まった。事実と理念の両面から説得力をもたせるため、チームメンバーは個々、あるいは合同で調査を開始し、ストーリーボードに盛り込む情報とデータを収集。多角的な検討により次第にビジュアル・シークエンスとしてイメージを共有できるようになるまでに5ヶ月余りが経過した。

残り20日間のラストスパートはストーリーボードをすべてピクトグラムとダイアグラムによって誰にも分かるように視覚言語化するデザイン作業で、プロジェクト・コーディネーターを務めたアメリカのA.マーカスの協力を得たとは言え、筆者の肩に全てはかかっていたため、徹夜作業の連続であった。

筆者と彼の基本方針として、ピクトグラムの全面活用が打ち立てられ、ナレーションにたよらなくても、複雑な概念や情報を目によって伝え得るビジュアル・シークエンスが創造された。事前の学習なしで、すぐ理解できるように、視覚言語の語彙は少なくおさえられた。制作実務ではアシスタントデザイナーとしてJ.カイパーとマーカスが協力し、音響効果のデザインにはR.ライスロフの協力を得ている。カイパーとライスロフはハワイ大学の教員であった。

言語文化や経験の違いを越えた力強い表現と訴求力を生み出すため、はじめと最後のイメージに地球のカラー写真を使った以外はすべて、黒い背景に白抜きのシンボルを配した。映画館以上に真っ暗な上映会場の中で観客は、浮かび上がったシンボルと直に対話する。コンピュータはまだ一般化していない時代であった。マルチスライドプレゼン効果を高めるため、ダイナミックな視覚イメージとの対話を図る環境を設定し、スクリーンが暗闇に消えるようにした。特殊なフイルムを採用し、ピクトグラムの形には100%光があたり、それ以外には100%あたらないようにした結果、真っ暗な空間に真っ白なピクトグラムだけが浮き上がって見とれる視覚効果が生まれた。

2台のプロジェクターの同調操作によるピクトグラムのモンタージュ効果やフェイドイン・フェイドアウトが、音響効果とともに観客を魅了してイメージを堪能させ、イマジネーションの開花によってメッセージを受け止める視覚活動へと誘う。複雑な概念や複合情報は、単純ながら力強い感動的な視覚イメージとなって伝えられ、観客は見て理解する立場から共鳴者へ、そして問題解決に参加している自分を発見する。

試写会でのアンケートの結果からも、“視覚表現”に最高の評価を見取ることができる。「とても良い」または「よい」という回答が95%以上。さらに「印象がとても強かった」「ピクトグラムの連続でストーリーが表現できることが分かり、興味深かった」「生々しくない表現でありながらインパクトがある」「オーバーラップする数個の絵が一つの思想表現になっている」「何とも言えぬ感動を覚えた」「哲学が表現されている」「国際協調の障害となっている言語問題を視覚言語の方向で一つの解決を試みている」というコメントも見られた。

“ナレーションなし”のオリジナル成果とは別に、英語のコメンテーター入りの映像も米国では教材になって普及しているようだ。日本での試写発表会では両者を見せて比較してもらったところ、ナレーションなしの方に完全に軍配が上がった。「ナレーションがあると、見ながら考える邪魔になる」という貴重な意見をもらった。それは会場の全員の意見を代表するものであることがわかった。また、「デザインの了解が各国、各環境によって異なるので、自然描写的なシンボルを使っても良かったのではないか」との示唆に富む意見も与えられている。

■人口・食料・エネルギー・公害など人類の抱えた困難な問題を克服するために国際協調こそ重要と訴えたピクトグラム    
 
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(Up&Coming '15 盛夏号掲載)
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