|
|
戸井研究室ホームページ |
快音化への着想と快音設計の考え方
「昔は騒音が大きかったのです。今はオフィス環境でも昔に比べて非常に騒音が小さくなりました」
これは一生懸命に低騒音化を図ってきた成果と言える半面、今度は「小さな騒音」が目立つようになってきています。では、音をどんどん下げていって無音が良いのかというと、それでは音からの情報が入らなくなり、不気味にさえ感じかねません。そこで、快音化の発想が必要ではというのが自ら当該分野の研究を始めた動機、と戸井教授は語ります。
「最初は我々も製品単品で快音設計していたのです」。それが、住環境で何が必要になるのか、あるいは時間帯や目的に応じて適切な音にしよう、といった考え方へと移行。戸井教授は、音の発生源をそれぞれ楽器と仮定し、そこに住む人が疲れない、あるいは快適な音環境と感じるようコーディネートする(スマートサウンドデザイン)、というスタンスを志向するに至りました。
つまり、従来は何かを作って出る音が悪ければ不快な音として低騒音化する、といったアプローチでした。それに対し同氏はまず、快適性を向上させるための音を作ることを「快音設計」と位置づけました。クルマや家電などを作る初期段階で「こういう音にしたら気持ちよく使えるか」というように、それが製品そのものの機能性に資するか否かを定義するために音を決める。ただそのためには、現状の音を評価する必要があり、その上で音の設定目標を定める。そして例えば、「どこをどう弄るとどういう音に変わるのか」「この音を出すためにはどう設計変更するのか」というように、評価から設計へのフィードバックまで一貫して考慮する手法を形成してきています。
多様なICTを活用し広範な分野でユニークな研究を展開
20年以上前に同氏が研究室を立ち上げた当初、「快音」という言葉自体がほとんど使われておらず、学会での発表時ですらその定義から説明する必要があったと言います。それが近年では、「快音化」や「快音設計」の考え方が普通に用いられるほどに浸透してきています。
一方、「音響システム研究室」には学部生と大学院生がそれぞれ10名前後、共同研究を専門に行う研究員数名が在籍。早くから精力的に取り入れてきた企業との共同研究は、年間10テーマ以上が同時進行。各テーマは2〜3年のプロジェクトとの位置づけで、トータルでは200数十件を数えます。
それらの研究に欠かせない要素施設の一つが音響実験室です。同研究室では2つの無響室と、実車や大型構造物も収容可能な都内の大学としては最大規模の半無響室など複数を、目的に応じて使用しています。また、振動解析や音響解析、各種数値シミュレーションなどを行うソフトウェア、生体情報や加速度、音圧などを計測するセンサー、振動や音響などの計測器、各種シミュレータなど、多岐にわたるICT(情報通信技術)を活用。特に、複数ソフトを独自に組み合わせ、融合しつつ、従来見過ごされてきた視点からの評価、あるいはそれらの設計へのフィードバックに繋げるべく努めています。
「機械系で音を扱うというのは、実はそれほど多くありません」
音の世界といえば一般的に建築音響や音を消したり・作ったりといった電気音響(アクティブノイズコントロール、アクティブサウンドコントロールなど)が知られています。精密機械工学に立脚した同研究室はその専門性を反映し、機械から生じる騒音に関する研究からスタート。その対象を着実に拡大する中で、クルマやオフィス、居住空間、福祉医療における音の問題もカバーしてきています。
|
|
|
住環境のサウンドデザインについて説明 |
|
クルマ関係の研究にUC-win/Road導入、今後の研究展開と課題
音響システム研究室ではもともと共同研究などを通じ、クルマに関する様々な音の研究でDSを使って行うことが近年の傾向でした。そのような中で「動画をうまく作れ、私たちが持っている他のソフトウェアに比べれば比較的買いやすい値段」というのがUC-win/Roadに対する当初の率直なイメージだった、と戸井教授は明かします。
数年前、「クルマの中は(ドライバー、助手席および後部座席の)それぞれが同じ音環境で良いのだろうか、異なる音環境が必要なのでは」との研究を着想。実験室内で「音のみ」「音と視覚」「音と視覚と運転動作」ごとに音を評価するための実験環境を構築しようとすると、視覚や運転動作に関する部分ではUC-win/Roadのようなツールなしにはなかなか難しい。特に運転状況を加味しようとすると、運転の加減速に基づき画面や音が連動して変化する必要があったことから、そうしたニーズに対応するUC-win/Roadの導入が検討されました。
またほぼ同時期、冒頭でも触れたように、自身が発足当初から関わる音質評価技術部門委員会(自動車技術会)において、生体情報を用いたクルマ走行時の音質評価について研究しているワーキンググループで「実際の運転状況をよりリアルに再現したい」との話があり、UC-win/Roadを紹介して導入に至った経緯もありました。
|
|
|
UC-win/Roadで作成された音響を評価するための実験環境(昼夜や晴天・雨天などの天候を切り替えてシミュレーションを実施) |
例えば、脇道からヒトが飛び出してくるシーンに対し、どのくらい前に適切な警報音を出せばドライバーがより安全に認知できるか、といった環境作成で実際にUC-win/Roadを利用。昼夜や晴天・雨天などの切り替えが容易など、その利便性を実感したと言います。また、以前はなかなか難しかった走行環境の再現が簡便化。加えて、作成した疑似的な運転環境は加速(急加速および緩加速)、あるいはルート上に設定した各種イベントが運転動作などに基づいて動き、優れた一体感を発揮。しかもログが全て残り、非常に有力なツールになり得ると評価。特に、操作系を伴った音環境の変化を見るという意味ではUC-win/Roadは非常に使いやすく、快適かつ機能的なスマートサウンドデザインの構築にも有用と同氏は述べます。
その一方で同氏は、音を専門とする観点から音質変更など音に対する自由度が上がることへの期待を示します。また現在、ヒトの情報をモニターすることが一つの大きな課題となっており、例えば感情をモニターできれば、それに基づいて適切に音環境や振動環境を作っていくことになるはず。そのようなモニタリングに応じた五感環境の構築が、クルマ関係でこれからやるべきこと、と説きます。
|
無響室でUC-win/Roadの実験環境を適用したDSを囲む研究室の皆さん |
|