関西大学は今日、法学、文学、経済学、商学、社会学、政策創造学、外国語学、人間健康学、総合情報学、社会安全学、システム理工学、環境都市工学、化学生命工学の13学部、法学、文学、経済学、商学、社会学、総合情報学、理工学、外国語教育学、心理学、社会安全、東アジア文化、ガバナンス、人間健康、法務(法科大学院)、会計(会計専門職大学院)、心理学研究科心理臨床学専攻(臨床心理専門職大学院)の16研究科から成る大学院などにより構成。大学・大学院を合わせて3万人超の学生に対し、専任教育職員740人(数字はいずれも2017年5月現在)を擁し、千里山をはじめ高槻、高槻ミューズ、堺の4キャンパス、そのほか複数の教育・活動拠点を展開しています。
楠見教授は2009年10月、関西大学の学長に就任。任期は2016年9月までの7年間(2期)にわたりました。その最終年(2016年)が同大創立130周年に当たり、その記念事業として1)文系・理系の垣根を越えた教員や学生、企業、研究機関による連携・共同研究拠点「イノベーション創生センター」、2)大阪を中心とした地域研究のハブを成す「なにわ大阪研究センター」が設置されています。特に後者の立ち上げには、育ててもらった大阪の文化を自ら中心となって研究していこうとの思いが貫かれているといいます。
研究室が取り組む主要な3分野
「メインは岩盤斜面(の研究)」という楠見教授が指導する「地盤環境工学研究室」では、1)岩盤斜面、2)地下水、3)トンネル壁面のひび割れ検出 ― の3分野を柱に研究活動を行っています。同氏が学長を務めていた7年間は、複数の特任教授が氏に代わって随時サポート。同氏復帰後の1年半は、AI(人工知能)を活用したトンネル壁面のひび割れ検出と、後に詳述する福井県大野市での地下水に関する調査がウェートを置いて取り組まれてきています。同研究室には現在、大学院生2名と学部生6名が在籍。学部生は最低一人1台、大学院生は一人2〜3台のPCが確保され、数値シミュレーションをはじめ現地調査のデータ処理など様々なソフトウェアの使用が求められます。
岩盤斜面の関係で同氏が最近注目する一つが、景観に配慮した斜面安定工法です。よくあるモルタル吹付法面があまり景観に配慮していないのに対し、例えば、自然斜面の木を出来るだけ伐採しないで斜面の安定化を図ろうというもの。斜面の安定の度合はモルタル吹付工より低くなる半面、木を残すことで景観を(環境を含め)損なわず、それでいて大きくは斜面崩壊を来さないような待受け工を確立すべく室内実験や現地調査が続けられています。
また、中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故(2012年)を受けて道路法が改正され、トンネルや橋梁などの道路施設は5年に1回の定期点検が義務付けられました。ただ、全国のそれら施設は膨大な数に上るうえ、例えば、交通量の多いトンネルの中を打音検査などで対応していては制約もあり、作業が追い付いていない実情があります。そこで同氏らは、トンネル壁面のひび割れを精度良く、迅速に検出するため、トンネルの壁面全体を連続的に高精細な写真で撮影し、それを画像処理するプロセスでAIのうち機械学習の一種「畳み込みニューラルネットワーク」を活用する手法を着想。バラツキがなく、精緻な検出法を確立すべく研究を進めています。
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さらに地下水に関しては、30年に近くにわたって京都盆地にフォーカス。その豊かな地下水を絶やすことなく永続的に利用できるよう適正な維持管理手法の検討、地下水の様々な問題に対応するための浸透流解析や移流拡散解析などを行っています。
そうした過程で2002年、NHKの番組で京都の伝統的な地下水利用が取り上げられた際、楠見教授の工学的な研究成果の一端を誰もが分かりやすく伝える方法として京都盆地の地下状況を3DCGで再現。併せて、自身が算出した京都盆地の地下水賦存量約211億トンが約275億トンとされる琵琶湖に匹敵することに言及。以来、京都の地下にある巨大な水がめ(同氏が「京都水盆」と呼称)が俄かに注目されるようになりました。
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京都水盆(京都盆地の地下に存在する多量の貯水)の3D構造モデル |
大野市の地下水を調査、地上と地下の一体的な可視化へUC-win/Road活用
楠見教授のUC-win/Roadとの接点は、5年ほど前に遡ります。学長を務めていた当時、かねがね大阪の街を活性化する方策を考えていた中で、古くから「水の都」と呼ばれていながら、例えば堂島川や中之島、大川の周辺は阪神高速道路の高架道路が交差するなど景観が損なわれてきたのではとの考えを醸成。同大総合情報学部の田中成典教授と話をする機会があり、そうした思いを伝えたところ、田中教授が自らの研究と楠見教授の発想を融合。UC-win/Roadを活用して当該エリアの景観をシミュレーションするVRが作成された経緯があります。
2017年4月、福井県大野市の地域活性化に関西大学が協力して取り組む研究活動がスタート。その一環として地下水利用に向けた工学的アプローチを自ら担うことになったのを機に、楠見教授はVRへのかつての成功体験も踏まえ、そこでのUC-win/Road導入を含む計画を構築しました。
大野市は盆地の上に城下町の面影を留める市街地が広がり、古来豊富な地下水が生活の中でフルに利用されてきた、いわば京都と類似した特徴を有します。この地下水を前面に地域の活性化に繋げたいとの市側の意向を受け、関西大学からは街の活性化を研究する、専門のそれぞれ異なる4名の研究者・教員が参加。楠見教授はまず、一連の取り組みのベースとなる同市の地下水について、盆地内の地下水賦存量、水収支、水の利用状況などを定量的に解明することとし、次いでそれらの成果を3DVRで分かりやすく可視化することをターゲットに位置づけました。
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福井県大野市の地下水研究 |
地下水は、文字通り地下にあって、通常はなかなか目に触れることがありません。そこで同氏は、例えば、大野城を中心とする市街地やエリア内にある複数の湧き水の場所なども反映した実際の地域の地表面をVRで作成。併せて、地質構成、賦存する地下水の場所や状態などを反映する地下のVRも作成。その上で、これら地上と地下のVRを、地質構成と湧き水との関係などが正しく繋がるようマッチングさせ、全体を一体化して可視化できないか、との構想が描かれました。
その際、UC-win/Roadは基本的に地上も地下も3D VRで再現することが可能です。「ただ、UC-win/Roadだけでは地下(の地質的な要素を反映するVR作成)は今のところ無理なため、別のソフトと組み合わせながら考えていこう」ということで、同氏は3Dの地質解析ソフトを別途用意しています。
一方、自治体が保有するボーリング柱状図など関連する資料やデータを活用しているものの、帯水層や岩盤の全貌を正確に把握するのに必要なデータはまだ大きく不足。それらについては2018年度以降、同氏らが自らデータを取得して補完。3Dの地質構成をはじめ帯水層の全貌、地下水の賦存量、水収支などを一層正確なものに改善すべく取り組んでいく考えといいます。
「(地域活性化について検討するプラットフォームを構築する上で)推定・推定では何とでも出来てしまいますから、(そうならないようにするには)きちんとした入力データが重要です」
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