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vol.19
 Academy Users Report
 アカデミーユーザー紹介/第19回
東京都市大学
工学部 都市工学科 災害軽減(栗原)
研究室×吉川名誉教授

構造物の安全性確保を視野に、コンクリートに関する
新技術や各種評価手法を研究開発
UC-win/Section活用のユニークな設計演習
「都市設計製図」、人気科目に

東京都市大学 工学部
都市工学科 災害軽減研究室
URL http://c-pc8.civil.tcu.ac.jp/conkuri/
所在地 東京都世田谷区
研究開発内容
コンクリートのリサイクル、打継ぎ・付着、内部鉄筋の腐食判定など

「ご覧いただいたように(授業中)あまり質問は出ません。何故かというと、学生同士がお互いに教え合いをしているのです。その上で、どうしても分からない時には(学生たちはTA(ティーチングアシスタント)を含む)我々のところへ(質問に)来ます」

東京都市大学工学部都市工学科の3年次向け学科共通科目「都市設計製図」の授業。世田谷キャンパス1号館2階の明るく機能的にレイアウトされた教室では、指導教官の栗原哲彦准教授がこれまでの課題の流れと新たな課題のポイントを説明。最後に氏の「各自、演習をスタートしてください」の声を合図に、学生らは一斉にそれぞれチームを組み、各自異なる条件を設定された課題に取り組み始めました。この、授業冒頭の一連のやり取りを振り返り、同准教授は当該科目におけるユニークな教育手法の一端に言及。その骨格となるパッケージソフトウェアの援用に加え、この教え合うというプロセスを通じ、教える側と教えてもらう側の双方の設計作業に対する理解がいっそう深まるはず、とそのメリットを説きます。

こうした演習科目の授業形態が考案されたのは、およそ10年前。吉川弘道名誉教授(当時、同大教授)や栗原准教授らを中心に鉄筋コンクリート(RC)橋脚の耐震設計計算について効率的に習得できるアプローチを模索。もともと吉川氏が研究用として立体骨組み構造の3次元解析プログラム「UC-win/FRAME(3D)」をはじめとするフォーラムエイトの各種ソフトウェアを活用していたこともあり、当社と協力しフォーラムエイトの二軸曲げを考慮した任意形RC・SRC断面計算プログラム「UC-win/Section」を援用する独自の設計演習手法を構築。以来、人気科目として定着するとともに、吉川氏の教授退職後は栗原准教授がその意図を引き継いで発展させてきています。

演習で学生にアドバイスを行う東京都市大学
吉川弘道 名誉教授


 災害被害の軽減へ、材料としてのコンクリートに注目

災害被害の軽減を目的に道路、橋梁、鉄道などの耐震性とリスクを解析する「災害軽減研究室」。同大都市工学科内には、「災害軽減」の名称を冠する3研究室(ほかに「吉田研究室」および実質的に次年度から始動する「関屋研究室」)が設置されており、「栗原研究室」もその一つです。

そのうち栗原研究室では、材料としてのコンクリートにフォーカス。耐久性や経済性に優れながらも、定期的な検査や維持管理が不可欠なコンクリートを「強く、永く、安全に使う」との理念の下、多様な研究に取り組んでいます。

東京都市大学 工学部 都市工学科
(災害軽減研究室)栗原 哲彦 准教授
栗原氏は自身が近年力を入れている研究対象として、
  • 1)コンクリートのリサイクル
  • 2)コンクリートの打継ぎや付着
  • 3)RC内の鉄筋腐食の判定
  • 4)ウレタンによるRC補強
を列挙。例えば、コンクリートのリサイクルでは廃棄されたコンクリートを、同じく廃棄された硫酸で溶かすなどの処理をした上で骨材として再利用する技術について検討。またコンクリート補強材としてウレタンの利用可能性に着目。企業と連携し、その補強効果を探るべく実践的な研究を進めています。

同研究室には修士1年生1名、学部4年生8名が所属。後者には2名の女子学生が含まれています。

 

 創立90周年を迎える中、社会のニーズを先取りし自ら変革

東京都市大学は1929年、電気、土木、建築の3工学科を擁する武蔵高等工科学校として創立。以来、改称や拡充を重ねつつ、1949年には学制改革を受け機械、電気、建設の3工学科から成る工学部を設置した武蔵工業大学として新たなスタートを切りました。その後も学科の増設や再編、大学院工学研究科(修士課程・博士課程)の設置や専攻の増設を段階的に進める中、環境情報学部(1997年)や知識工学部(2007年)を開設。創立80周年の区切りとなった2009年には校名を現行の「東京都市大学」へと変更するのと併せ、都市生活学部および人間科学部を新設。また、2013年には環境情報学部を環境学部とメディア情報学部に改組しています。さらに、同大は2019年に創立90周年を迎えます。

現在、同大は工学部、知識工学部、環境学部、メディア情報学部、都市生活学部および人間科学部の6学部、総合理工学、工学(2018年度より「総合理工学」に名称変更)および環境情報学の大学院3研究科により構成。大学・大学院を合わせて約7千5百人の学生に対し、286人の専任教員(数字はいずれも2018年5月現在)を擁し、世田谷、横浜および等々力の3キャンパスを教育・研究の拠点として展開しています。

そのうち工学部は機械工学科、機械システム工学科、医用工学科、エネルギー化学科、原子力安全工学科、建築学科、都市工学科および電気電子工学科(2019年度から「電気電子通信工学科」に名称変更予定)の8学科から構成。世田谷キャンパスに配置されています。

また、都市に関する社会の幅広い要請に応え、従来の土木工学の範疇を超えた都市の質を向上させる工学をターゲットとする都市工学科には400人超の学生が在籍。「栗原研究室」をはじめとする「災害軽減研究室」のほか、それぞれ細分化された複数の研究室を内包する計画マネジメント、水園環境、地盤環境工学および構造安全の各研究室が設置されています。



 「都市設計製図」の考慮された仕組みと授業の流れ

「29年間(大学の)教員をしていましたが、この授業はベストと言えるぐらいの自信作です」

学生が実践的な設計を学ぶためには、実際の作業を伴うことが不可欠。その際、各学生の行う作業がすべて他の学生と異なる内容であることも重要。そうかと言って、あまり自由度が大きくなり過ぎると、授業としては拡散し過ぎてしまいかねない。そのため、基本的にプロが行っている設計手順を踏んでいる必要がある。そうした意味では、これらの要素をすべて考慮し、満たしているソリューションがまさに冒頭で触れた「都市設計製図」の手法、と吉川名誉教授は位置づけます。

10年ほど前に同氏や栗原准教授らが中心となり、手計算では対応が困難なところで市販のパッケージソフトを利用し、RC橋脚の耐震設計計算について効率的かつ短期間に修得できる教育手法を開発できないかと模索。その中で、以前から研究用にフォーラムエイトの各種ソフトウェアを導入されていた経緯もあり、使用するソフトとして「UC-win/Section」に着目。これを援用し、実務計算用のツールを習熟する機会ともなる設計演習を週2コマ(200分)で14週分の授業に収容。担当教員を補佐するTAも配置するといった体制が構築されました。

UC-win/Sectionを利用した演習風景

現在、このフレームワークをほぼ踏襲した都市工学科の3年次・後期向け設計演習「都市設計製図/RC橋脚の耐震設計」は、同学科3年生(90名弱)のほぼ半数に当たる50名弱が受講。学生はそこで、
  • 課題1:橋脚基部の断面解析
    課題2:RC橋脚の耐震設計(その1)
    課題3:RC橋脚の耐震設計(その2)
と段階的に3つの課題が与えられ、それぞれについてレポート(計算書)を提出。一連の演習課題をこなす中で、学生は単柱式RC橋脚を対象に、道路橋示方書に準じた耐震設計を行うことになります。

具体的にはその都度、事前に60〜70セットの異なる設計条件を準備。課題1では学生が各自設定された条件を基に橋脚基部の耐震性を確認すべく、UC-win/Sectionを利用して断面解析し、M-φ関係や曲げ耐力を算定。その際、学生一人ひとりにそれぞれ異なる数値や寸法、設計条件などを付与。それらは次段階以降の課題に影響することもあり、学生が他学生に頼ることなく自らの課題に自力で取り組み、計算せざるを得ない仕組みが働いています。

また課題2では、学生は課題1で自身が決定した断面をベースに、許容応力度法に独自に作成した簡易エクセルシートを、地震時保有水平耐力法にはUC-win/Sectionをそれぞれ利用しながら耐震設計計算を行います。

「実は、課題2で耐震性の判定が『OUT』と出るように最初に与えられた条件は設定されています」

つまり、そこでは学生はそれぞれの計算に基づく判定とともに、照査結果がなぜ「OUT」になるのかも自身で判定。例えば、そうした過程での試行錯誤を通じ、講義の説明だけではなかなか身に付かない、主鉄筋や横拘束筋の重要性あるいは効き具合などに気づくことにも繋がる。さらに、続く課題3では設計基準を満たす(「OK」となる)ように配筋を変更し、再度耐震設計計算を行った上で、最後のリポートを作成することになる、と栗原准教授は流れを語ります。

都市設計製図/RC橋脚の耐震設計:
パッケージソフトの活用

■基部断面
断面:複鉄筋+側方鉄筋
荷重:軸力+曲げモーメント(手計算では到底無理)
UC-win/Sectionによる断面解析(9セット購入)
■M-φ関係, Mu, φy, φuの算定:UC-win/Section
■Mu、φuの算出:手計算
断面を単鉄筋構造に見立て算出、UC-win/Sectionと比較
■許容応力度法(レベルT地震動)
コンクリートおよび鉄筋の応力度を計算できるエクセルシートを準備
■地震時保有水平耐力法(レベルU地震動)
画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
都市設計製図/RC橋脚の耐震設計:成果・感想・課題
  1. 学生60名全員の設計条件を変えている.⇒ 他学生に頼ることはできず、自力で計算書作成
  2. 手計算で苦労することも大変重要ですが、実務計算用の商用ツールを活用/習熟することも得るもの大なり.
    学生は、パソコンソフトにすぐに慣れ、嬉々として画面に向っていた.
  3. パソコンソフトを実際に使う.
    横拘束筋、せん断補強筋、曲率など、初めて知る専門用語を自然と使う.工学的な意味合いも身についていった.
  4. 習熟の早い学生が、遅れている学生に説明している.一端のエンジニアのようでもあり、頼もしくもあった.
  5. 断面特性や応力計算など、手計算では困難な計算もパッケージソフトウェアの活用により、次のステップに進むことができる.
  6. 初期条件にて、照査結果がOUTになる設計条件を与えた.
    設計変更あるいは補強計算を行う.耐震設計計算の核心を理解させることができた.
  7. わざと、照査結果がOUTになる設計条件を与えた.
    試行錯誤により,主鉄筋/横拘束筋の重要性と効き具合に気付く.逆に、講義にて何回説明しても結局は身に付かない.
      演習の試行錯誤を通して、耐震設計を理解することできる.


 教育と研究の両面で広がるソフト利用の可能性

「良いソフトウェアはエンジニアリング教育にも使えるのです」

吉川名誉教授は、10年間に及び同設計演習を経験。市販ソフトや実際の設計計算書などの適格な利用を通じ、学生が実践的な設計作業を身に付け、習熟の早い学生が他学生をサポートする様子に触れる中で、そうした試みの効果を実感してきたと言います。

一方、今年度後期の「都市設計製図」では、いずれも栗原研究室に所属する橋本啓佑さん(同大大学院総合理工学研究科建築都市専攻修士1年)と吉田拓矢さん(同大工学部都市工学科4年)がTAを担当。栗原准教授をサポートし、必要に応じてUC-win/Sectionや数式の使い方などを学生に直接指導。そうした観点からは、同ソフトの構造解析のし易さや見易さへの印象が述べられました。

従来、コンクリートの材料分野に関する研究のウェートが高かったという栗原准教授は近年、その構造分野にも研究の裾野を広げつつあると語ります。

「(今後の研究では)RCの構造体になった時の、材料である時とは少し違う(コンクリートの)性能がどうか、といった部分も取り入れながらやっていきたい。そこではこうしたソフトを使った検証が必要で、いろいろ準備をしていきたいと思っています」

吉川弘道名誉教授は、この演習授業の一環として力学模型「振動応答習得機」を制作し活用している。また、最近では、社会インフラの意義を正しく認知し次世代に継承することを目的として、土木施設を紹介する投稿公開型アーカイブを主宰し、SNSによって継続的な情報発信を進めている。最終的には「100年前のインフラ施設の画像を100年後まで公開する」ことを目指している。
画像をクリックすると大きな画像が表示されます。

●土木ウォッチング
  -日本の土木再発見-
http://www.doboku-
watching.com/

投稿公開型アーカイブ。現時点で
800施設を掲載している。

●Discover Doboku
  -インフラ大図鑑-

https://www.facebook.com/
DiscoverDoboku/

6500人のフォロワーに対して、
毎週数回、情報発信している。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
東京都市大学 吉川 弘道 名誉教授
執筆:池野隆
(Up&Coming '19 新年号掲載)



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