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vol.20
 Academy Users Report
 アカデミーユーザー紹介/第20回
北海道大学 大学院工学研究院
北方圏環境政策工学部門
「先端モビリティ工学(萩原)研究室」

視認性を中心としたドライバー行動、
それと関連するインフラの研究開発にウェート
自動運転社会を見据えた研究にUC-win/Road DSを活用、
冬期路面もVRで再現

北海道大学 大学院工学研究院
北方圏環境政策工学部門
「先端モビリティ工学(萩原)研究室」
URL http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/kyoku/
所在地 札幌市北区
研究開発内容
ドライバー行動に基づく交通計画、交通工学
および土木工学

今回は、北海道大学大学院工学研究院北方圏環境政策工学部門の萩原亨教授にインタビューしました。

同氏は、自動運転を実現するクルマを用い実道で走行させて実験を行うことができない現状では、VRを使うことがベターの選択と述べます。現在は、国土交通省(国交省)道路局による「道路政策の質の向上に資する技術研究開発」(2017年度)の助成を受けた取り組みの中で、冬期道路における自動運転車利用時のドライバー行動をVR技術を使ってトライしています。

ドライバーの視認性を中心としてその運転行動に関する幅広い研究に長年取り組んできた同氏はそれまで、実車を使い、フィールドでドライバー行動を計測するといったアプローチを専ら採用してきました。ただ、上記助成を受けて2年前にスタートした研究では、近い将来に実用化・普及してくる技術を前提とした実験が必要であり、従来型の手法では大きな制約がありました。

「自動運転なるモノは、(現状ではまだ)実際に動かすことの出来る車種が非常に限られていますし、それを人に運転させて(実道で)危ない場面を走行させることは出来ません。ですから、特化した条件をVRで作り出し、『どういうことになるのか』『どういうことをやっていけば良いか』ということを、トライアル・アンド・エラー(試行錯誤)する。(つまり)VRしかないということで、VRを選択したということです」

こうした観点から萩原教授は、同研究への申請段階でVRの活用を想定。もともと交流のある研究者仲間や今回研究で連携する研究者らの多くが導入されていたことなどもあり、国交省の申請採択を受けてフォーラムエイトの3次元(3D)リアルタイムVR「UC-win/Road」をベースとするドライブ・シミュレータ(DS)の利用をスタートしています。

北海道大学 大学院工学研究院
北方圏環境政策工学部門 萩原 亨 教授


 140年超の歴史を誇る北大、研究室の位置づけ

例年と比べれば降雪が少ないらしいとは言え、JR札幌駅周辺の大通りの両側に溶け残った雪の壁が続く3月上旬。同駅からほど近い北海道大学札幌キャンパスの「先端モビリティ工学(萩原)研究室」を訪れました。

1876年に設立された札幌農学校を起源とする北海道大学。以来、140年超を経て同大は文学部、法学部、理学部、歯学部、工学部、獣医学部、教育学部、経済学部、医学部、薬学部、農学部、水産学部の12学部、および大学院の3研究科、17学院、1教育部、14研究院、1連携研究部などにより構成。大学・大学院を合わせて1万8千人超(数字はいずれも2018年4月現在)の学生が札幌および函館の2キャンパスを教育・研究の拠点として展開しています。

そのうち萩原研究室が属する大学院工学研究院は、応用物理学、応用化学、材料科学、機械宇宙工学、人間機械システムデザイン、エネルギー環境システム、量子理工学、環境フィールド工学、北方圏環境政策工学、建築都市空間デザイン、空間性能システム、環境創生工学、環境循環システムの13部門37分野をカバー。また北方圏環境政策工学部門は、寒冷地建設工学および技術環境政策学の2分野に分かれ、同研究室は後者に含まれます。



 ドライバー行動への着目から、直近の自動運転へと展開

ドライバーの行動、特にその視認性に関する研究をベースとして交通計画から交通工学、社会・安全システム科学、土木工学などの領域にわたり社会に資する研究開発に取り組む萩原研究室。そこには、様々なアングルから交通事故の防止を目指そうとの発想が通底しています。

萩原教授のドライバー行動への着目は、博士論文でドライバーの注視点行動に関する研究に取り組んだ約30年前に遡ることが出来ます。その後、同氏の研究は「ドライバーが何を見て、何を考え、どういう行動を取った結果どうなったか」を対象とし、その中で特に問題となる「ドライバーのミスによる交通事故」にフォーカス。ドライバーがミスを起こさないための対策や技術の研究開発に努めてきました。それが近年、クルマ自体の性能もさることながら、クルマの制御主体がドライバーからマシーンにウェートを移しつつある、と同氏は述べます。

「これが今、一番大きく変わろうとしていることで、(冒頭で触れたような)こういう新しい研究になってきているのです」

自身が自動運転を研究対象に加えたのは、5年ほど前から。以後、一層主流となってくるであろう自動運転に対し、あくまでも自動運転のシステム側ではなく、道路インフラをつくる側の視点で「どういうことをしなければいけないか」について、ドライバー行動との関係の中で探索してきています。

萩原教授が直近の主要な取り組みとして挙げるのは、いずれも前述の、国交省道路局による「道路政策の質の向上に資する技術研究開発」に応募し、助成を受けた二つの研究です。

一つは、交通事故対策を政策領域とする「市街地におけるプロビーム道路照明についての研究開発」(研究代表者:萩原教授、研究期間は2016〜2018年度の3年間)。これは、夜間の街路における横断歩行者の事故を防ぐべく、ドライバーによる横断歩行者の発見を早める方策に注目したもの。ここでは車両の進行方向に光を照射し、ヘッドライトと照明協調することで歩行者の発見を早めることが期待される「プロビーム道路照明」を街路向けに開発しました。

もう一つが、特定課題(「自動運転社会の実現に必要な道路インフラについて」)に対応した「自動運転と道の駅を活用した生産空間を支える新たな道路交通施策に関する研究開発」(研究代表者:有村幹治・室蘭工業大学准教授、研究期間は2017〜2019年度の3年間)。これは、人口減少により公共交通や物流の維持が困難化している、北海道の農林水産業や観光等を担う「生産空間」に注目。同空間に住み続けられる道路交通環境を目指し、自動運転や道の駅の活用の実装を含む道路交通施策のあり方について研究開発中です。萩原教授は同研究に参画する中で、UC-win/Road DSを採用しています。

そのほか同氏は、国交省北海道開発局やNEXCO東日本・中日本・西日本、NEXCO総研、本四高速の各社を中心に学外とも連携。例えば、ドライバーの視認性を考慮し、どのような道路照明やトンネル照明が夜間に見やすいか、といった共同研究を行っています。

速度協調システム利用時にドライバがシステム介入したときの道路状況に関する研究

■調査方法
日時:日時:2018年2月5日から7日
場所:北海道の網走市と大空町(図1)
    (起点:国土交通省北海道開発局網走開発建設部、終点:デンソーのテストセンター、距離:25.5km)
走行車両:自動運転車両、RT3-Curve(連続路面すべり抵抗測定装置)、移動気象観測車
道路線形:カーブ、勾配、橋梁、信号、右左折
調査時における路面管理:除雪と凍結防止剤の散布状況を道路別に表を作成(図2)

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
図1 走行コース 図2 除雪と凍結防止剤の散布状況

■調査結果
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■まとめ
冬期路面におけるドライバによる自動運転システムへの介入は
  • 路面のすべり(HFN)が低くなると発生しやすくなる
  • カーブや勾配などの道路線形が厳しい区間で発生しやすい
冬期の道路維持管理と自動運転システムの
双方の協調が重要である


 冬期にACCを利用するドライバーの行動検討にUC-win/Road DS採用 

5年ほど前から萩原教授が着手した自動運転に関する研究では、それまでと同様にフィールドでドライバー行動を計測するアプローチでした。それに対し、2017年度にスタートした国交省道路局の助成による技術研究開発(「自動運転と道の駅を活用した生産空間を支える新たな道路交通施策に関する研究開発」)への参画では、VR技術の活用が前提とされました。その狙いについて同氏は、1)フィールドでの実車による走行では毎回同じ実験条件を設定できないが、VRは実験条件および自動運転の再現性が高く同じ条件での比較が可能なこと、2)VR上で衝突するような状況が生じてもリアルな危険を伴わないこと、の2点を挙げます。

「(この研究では、凍結路面や視界不良など運転を困難にする要因の多い)冬(の道路環境で実験)をやろうとしたのです。それで(例えば)毎回同じ『滑る』条件を作るのが(フィールドでは)難しいということで(VRを活用することにしました)」

こうして、同技術研究開発への応募に当たり、萩原教授は2016年秋に申請準備をする際にはVRの活用を想定。もともと密に情報交換を行ってきた研究者仲間や今回の研究に向け連携する研究者らから、その多くがUC-win/Road DSを利用しており、「(同研究でVRを)やるのだったら、フォーラムエイト(のDS)では」との一致したトーンを受け、自身も着目。加えて、複数の大学や研究機関、企業などでUC-win/Road DSを利用し、それに基づく論文も多数見られるなど実績面でも評価。その割に手頃な価格ということから、採用を決めた、といいます。

UC-win/Road DSを冬期ACC利用時の運転行動研究に活用

同教授はまず、冬期の道路環境における自動運転システムの動作に関連し、道路側の役割を「自動運転システムのセンシングシステムでは検知できない前方の路面状況・視界状況などのリスク事象を自動運転システムに伝えること」と設定。同研究では、「冬期の高速道路でアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)を利用しているドライバーが前方の滑りやすい路面(低μ路)に起因するリスクを事前に回避するための情報提供」について検討しています。そこで、1)前方の低μ路に関する情報をドライバーに提供した後の運転と、2)低μ路に関する情報に加え対応方法もドライバーに提供した後の運転の、差異を計測。実道ではこうした状況を再現できないため、DSを使った実験が組み込まれました。

研究期間3年の初年度(2017年度)は同大の学生48人が参加し、上記実験を実施。その傍ら取り組まれた別のプロジェクトのフィールド実験で、路面の滑りのみならず道路線形の影響も大きいとの結果が導かれました。そこで、続く2年目(2018年度)は前年度と多少場面を変え、道路線形の要素も加えた設計にし、学生32人が参加して同様に実験を行っています。

ドライビングシミュレータを用いたACC利用時の冬期路面におけるドライバの運転行動に関する研究

■調査方法
UC-win/Road Drive Simulatorを用いて実験参加者による実験。
冬期路面の道路区間(札樽自動車道の金山パーキングエリア〜張碓トンネル手前までの約11q区間再現)
走行シナリオとリスク事象

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
張碓大橋が凍結路面となっていることを
リスク事象とした
圧雪路面と異なるテクスチャを橋梁部の
路面とした
実験参加者が走行する5回目のみに
このリスク事象を発生。
先行車が減速する事象を追加

■まとめ
  • ドライバの主観評価および車両挙動の記録の両者から,前方の路面状況に加え具体的な操作を指示することで,ドライバはACC-OFFを選択し,速度を低下させ先行車との車間距離を開ける行動を行ったことが明らかになった.
  • 一方,このような情報を受け取ったドライバは,情報を受けた直後にACCをOFFにする操作を行ったのではなく,路面状況が異なることを目視で見たときACCをOFFにする操作を選択した.
  • 情報を提供するのみではなく,それによる行動を促す情報とする工夫が必要と言えた.また,前方の低μ路に関する情報がない場合,危険をドライバは検知できなく,先行車の減速によるリスクへの対応ができなかった.


 研究の最終年度と今後のVR活用

「(UC-win/Roadは)道路を(VRで)再現するのは作りやすく、実際の道路に近いモノにはすぐなりました」

今回実験で使われたVRは、同研究室がUC-win/Roadを用いて実験環境となる地形データを作成。フォーラムエイト側でシナリオに少し手を加えたり、UC-win/Roadに足りない機能をカスタマイズして用意したり、と随時サポート。その上で大学側が実験シナリオを最終調整する形で進められました。こうしたプロセスを通じ、UC-win/Roadの「便利な部分は大きい」というメリットとともに課題も実感。それらを踏まえ、最終年度(2019年度)は自動運転のシステムを少し変えつつ、前年度と同様にVRを用いた実験を繰り返す考え、と萩原教授は語ります。

「(今回研究では)自動運転とドライバーのインタラクションを理解するために、VRを使っています。これをベースに、自動運転をする時のより良いインターフェースを開発したり、ドライバーがエラーを起こさない道路にしたり、ということへ将来的に繋げていきたいと思っています」

執筆:池野隆
(Up&Coming '19 春の号掲載)



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