ここで毎年訓練を受けているのは、交通学科の学生約30人とその他の学生約300人、そして外部から受け入れた人もいます。
「中央警察大学の卒業生の多くは、現場のリーダーとなり40人もの部下を束ねることも少なくありません。そこで、リーダー自身も運転スキルを高めるため、ここで訓練しています。今日は警察専門学校を卒業後、実務に携わっている警察官十数人が訓練に来ています」と交通学科長のピーチャン・チャンさんは説明します。
台湾の警察官の死亡原因として、交通事故が多くを占めています。警官の安全を守るためにも、運転スキルの上達は重要な問題です。
このドライビングシミュレーターは、実物のクルマの動きを物理法則に従って忠実に再現できるものです。台湾警察のエリートたちが訓練に使っていると聞くと、犯人とのカーチェイスに求められる180度ターンや、クルマの前に回り込んで停車させるためのスキルなどを想像しがちですが、そうではありません。実際の使い方は、台湾の街中や山道、そして高速道路などでの安全運転を追究するという、極めてオーソドックスなものなのです。
この日の訓練では、台湾で活躍中の若手警察官が集まっていました。まずは教官の陳家福氏がドライビングシミュレーターの解説を行っていました。現職の若い警察官たちは興味津々の様子です。
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ドライビングシミュレーターの訓練に先立って講義する陳家福教官 |
続いて、教官自らが“お手本”として台湾の市街地を再現したVRの中を運転してみせます。まずは市区内の道路です。しかし、安全運転はそんなに簡単な仕事ではありません。本来は道路の端を走行しなければならないバイクが車線を変えながらクルマの前に回り込む、信号のない交差点で突然目の前をクルマが横断する、駐車していたクルマが予告もなく車道側のドアを開けるなど、台湾のタクシーなどに乗ったことがある人にはおなじみの交通事情が、UC-win/Road上にリアルに再現されています。
こうした交通状況の下では、少しでも気を抜くと危険です。教官はわざと、事故ってみせるというパフォーマンスで、安全運転がいかに難しいかを説いていました。
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まずは教官自らがドライビングシミュレーターで“お手本”を見せる |
続いて、若手警察官がシミュレーターに座り、代わる代わる運転を体験しました。警察官の中には、高速道路での取り締まりに従事している人もいるとのことで、見事なハンドルさばきを披露する人もいました。また、中には紅一点の女性警察官も積極的にチャレンジしていました。
「UC-win/Roadで作成したコースには、市街地や住宅地から高層ビル街、高速道路、山道やトンネルまで、台湾の代表的な道路が含まれています」と陳教官は説明します。
「トンネルを抜けたら急に雨が降っていたケース、クルマの陰に隠れて横断歩道をゆっくりと渡る高齢者、信号のない交差点を一時停止しないで飛び出してくるクルマなど、台湾の交通事情に応じた25種類のシナリオが組み込まれています」(陳教官)。
台湾での交通事故は、70〜80%がバイクが絡んだものと言われています。そのためシナリオにもバイクがよく登場します。
これらをクリアしながら、完走することで安全運転のスキルが養成されるというわけです。派手なカーチェイスはありませんが、台湾の道路では何が起こるかわからないと言っても過言ではありません。ドライビングシミュレーターで訓練すると、短時間で様々なイレギュラーなシーンを体験できるので、いろいろな状況下で「次に何が起こるのか」ということを、想定しながら運転する能力が身につくようです。
コースを走り終えると、総合的な運転スキルの評価と、車線や車間距離を守れたか、ハンドルやアクセル、ブレーキの使い方は適切だったか、衝突の危険はなかったかといった運転スキルの内訳について診断が下されます。 また、模範的なドライバーのコース取りと、自分が運転した軌跡を比べることもできるので、ドライビングシミュレーターならではの振り返りもできます。 |