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vol.21
 Academy Users Report
 アカデミーユーザー紹介/第21回
中央警察大学(台湾)
Central Police University (TAIWAN)

突然のドア開け、飛び出しなども再現。台湾での安全運転をシミュレーターで訓練

中央警察大学
URL https://www.cpu.edu.tw/
所在地 No.56, Shujen Rd., Takang Vil., Kueishan District, Taoyuan City 33304, Taiwan (R.O.C.)
組織概要:台湾桃園市に位置する台湾警察幹部養成を目的とした高等教育機関。1936年、内務省警察署とチェチアン州立警察学校が合併して発足
警察大学の刑事鑑識ビル

台湾・桃園市にある中央警察大学は、1936年に創立された台湾警察のエリート養成機関です。校舎内には訓練用にフォーラムエイトのドライビングシミュレーター3台が設置されています。UC-win/Roadで作られた訓練コースには、「突然ドアを開ける駐車車両」「車線をころころ変えながら走るバイク」などが再現され、警察官はこうした台湾特有の危険な状況の中で安全に運転する技術を磨いています。

台湾桃園市にある中央警察大学は、台湾警察の幹部養成を担う台湾唯一の警察専門大学です。警察の主な役割は、セキュリティーと交通安全の維持管理です。そのため大学では「交通学」の学部を設けており、学生は交通規制や事故処理、鑑識、交通工程管理、交通安全管理などのことを勉強し、教員はこれらの関連領域の教育、研究などを勤めています。

刑事鑑識ビルには、フォーラムエイトのVR(バーチャルリアリティー)ソフト「UC-win/Road」に連動するドライビングシミュレーターが3台設置され、訓練に使われています。うち2台は2015年、1台は2017年に導入しました。その目的は交通規制や事故処理などの道路交通の訓練と、自動車やパトカーの運転といった車両の訓練です。

「以前も別のシミュレーターを使っていたが、おもちゃみたいでリアリティーが足りませんでした。そこでフォーラムエイトのシステムを導入しました」と交通学科長のピーチャン・チャンさんは説明します。

 
刑事鑑識ビルの一角には、フォーラムエイト製
ドライビングシミュレーターが3台設置されていた
台湾警察のエリートと教官たち。ドライビングシミュレーターの運転席に座って
いる方が、交通学科長のピーチャン・チャンさん
ここで毎年訓練を受けているのは、交通学科の学生約30人とその他の学生約300人、そして外部から受け入れた人もいます。

「中央警察大学の卒業生の多くは、現場のリーダーとなり40人もの部下を束ねることも少なくありません。そこで、リーダー自身も運転スキルを高めるため、ここで訓練しています。今日は警察専門学校を卒業後、実務に携わっている警察官十数人が訓練に来ています」と交通学科長のピーチャン・チャンさんは説明します。

台湾の警察官の死亡原因として、交通事故が多くを占めています。警官の安全を守るためにも、運転スキルの上達は重要な問題です。

このドライビングシミュレーターは、実物のクルマの動きを物理法則に従って忠実に再現できるものです。台湾警察のエリートたちが訓練に使っていると聞くと、犯人とのカーチェイスに求められる180度ターンや、クルマの前に回り込んで停車させるためのスキルなどを想像しがちですが、そうではありません。実際の使い方は、台湾の街中や山道、そして高速道路などでの安全運転を追究するという、極めてオーソドックスなものなのです。

この日の訓練では、台湾で活躍中の若手警察官が集まっていました。まずは教官の陳家福氏がドライビングシミュレーターの解説を行っていました。現職の若い警察官たちは興味津々の様子です。

ドライビングシミュレーターの訓練に先立って講義する陳家福教官

続いて、教官自らが“お手本”として台湾の市街地を再現したVRの中を運転してみせます。まずは市区内の道路です。しかし、安全運転はそんなに簡単な仕事ではありません。本来は道路の端を走行しなければならないバイクが車線を変えながらクルマの前に回り込む、信号のない交差点で突然目の前をクルマが横断する、駐車していたクルマが予告もなく車道側のドアを開けるなど、台湾のタクシーなどに乗ったことがある人にはおなじみの交通事情が、UC-win/Road上にリアルに再現されています。

こうした交通状況の下では、少しでも気を抜くと危険です。教官はわざと、事故ってみせるというパフォーマンスで、安全運転がいかに難しいかを説いていました。

まずは教官自らがドライビングシミュレーターで“お手本”を見せる

続いて、若手警察官がシミュレーターに座り、代わる代わる運転を体験しました。警察官の中には、高速道路での取り締まりに従事している人もいるとのことで、見事なハンドルさばきを披露する人もいました。また、中には紅一点の女性警察官も積極的にチャレンジしていました。

「UC-win/Roadで作成したコースには、市街地や住宅地から高層ビル街、高速道路、山道やトンネルまで、台湾の代表的な道路が含まれています」と陳教官は説明します。

「トンネルを抜けたら急に雨が降っていたケース、クルマの陰に隠れて横断歩道をゆっくりと渡る高齢者、信号のない交差点を一時停止しないで飛び出してくるクルマなど、台湾の交通事情に応じた25種類のシナリオが組み込まれています」(陳教官)。

台湾での交通事故は、70〜80%がバイクが絡んだものと言われています。そのためシナリオにもバイクがよく登場します。

これらをクリアしながら、完走することで安全運転のスキルが養成されるというわけです。派手なカーチェイスはありませんが、台湾の道路では何が起こるかわからないと言っても過言ではありません。ドライビングシミュレーターで訓練すると、短時間で様々なイレギュラーなシーンを体験できるので、いろいろな状況下で「次に何が起こるのか」ということを、想定しながら運転する能力が身につくようです。

コースを走り終えると、総合的な運転スキルの評価と、車線や車間距離を守れたか、ハンドルやアクセル、ブレーキの使い方は適切だったか、衝突の危険はなかったかといった運転スキルの内訳について診断が下されます。

また、模範的なドライバーのコース取りと、自分が運転した軌跡を比べることもできるので、ドライビングシミュレーターならではの振り返りもできます。
中央警察大学に導入された
フォーラムエイトのドライビングシミュレーター

ドライビングシミュレーターで訓練する女性警察官
前方を走るバイクは、突然、車線を変えるなど予測不能な
動きをするので注意が必要だ

UC-win/Roadのコースを説明する陳氏。台湾特有の交通
事情を反映した25種類のシナリオが仕込まれている

模範運転のコース取りと自分のコース取りを
後で比較して改善できるのもドライビング
シミュレーターならでは
運転が終了すると総合的な運転スキルのほか、車間距離が
守れたか、衝突の危険はなかったかなどの内訳も採点される

台湾の人は日本人に比べて、あまりお酒を飲まない人が多いようですが、中には酔っぱらい運転のクルマもいます。そこで、このドライビングシミュレーターは、飲酒が運転に与える影響を調べるという目的も重要な活用目的の一つとなっています。

「既に、酔っぱらい運転の実証実験も計画しています。ビールやワインなどのほか、アルコール度数50%超える強いお酒など、様々な酒類も用意し、これらが運転にどんな影響を与えるのかを調べる予定です」とチャンさんは語ります。

実車で酔っぱらい運転をするのは危険ですが、ドライビングシミュレーターなら、自分では「酔っていない」と思っても、ハンドルやブレーキの操作が実際にどう変わるのかを訓練を受けた学生も体験できるというわけです。

警察官の皆さんは、現場で交通取り締まりを行う際に、ドライビングシミュレーターでの体験があれば、説得力ある話ができそうです。

このドライビングシミュレーターは、2018年11月に東京で開催された「第17回3D・VRシミュレーションコンテスト オン・クラウド」で「台湾警察大学の学生向け安全運転訓練シミュレーター」として発表され、アイデア賞を受けました。学科長のピーチャン・チャンさんは、その時に受賞した賞状と盾を、今もオフィスに飾っています。

「第17 回3D・VR シミュレーションコンテスト オン・クラウド」
でアイデア賞の賞状と盾
受賞は台湾政府のウェブサイトでも報じられた

今後のドライビングシミュレーターの活用について、チャン氏は「独自でシナリオを開発し、交通規制後の影響分析なども行っていきたいです。また、リアルな街並みや建物が再現できるので、他の学科ではテロ防止、避難の訓練にも使えるでしょう。ドライビングシミュレーターも将来はモーションプラットフォーム付きにグレードアップし、よりリアルな運転環境を構築していきたいです」と語りました。

執筆:家入龍太
(Up&Coming '19 盛夏号掲載)



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