現在同社は羽田空港第2ターミナルを中心に、同空港に就航する一日400便近いANAの全便をはじめAIRDO、SFJ向け貨物搬送、および郵便物の取り扱い・搬送を主業務として従事。本社および空港事務所(いずれも東京都大田区内)を拠点に約230名(2017年11月現在)の従業員を配置し、24時間365日稼働する業務にシフト勤務で対応しています。そのうち空港事務所には現業部門の貨物郵便部およびその安全管理面を支える安全品質推進部、本社には総務部が置かれています。
まず貨物郵便部は、空港内で貨物の搬送や航空機搭降載を行う搬送1課〜3課、国内郵便の搬送や郵便物の仕分け、積み付け、引き渡しなどを行う郵便課、各課の勤務調整や活動の割り振りを行う業務課の5課から成ります。特に搬送1課〜3課は、それぞれ20数名を擁する5グループから構成。そこでは前述のシフト制を回していくため、多数のシニア(60歳以上)の従業員がその能力を効果的に発揮することで重要な役割を果たしている。生産性を考慮しつつ各課の勤務体制の決定や作業の点検を主導する貨物郵便部次長兼業務課リーダーの遠藤信之氏は同部における最近の特徴的な一端を、そう位置づけます。これに対し安全品質推進部は、特殊な環境下で車両の運転が求められる現業での安全管理や新入社員教育を担当。例えば、他社の事故事例などを用いた自社従業員向け事故の未然防止活動のほか、ほぼ毎月採用される新入社員が貨物郵便部に配属され実技訓練を受ける前段階として業務上必要となる基礎知識の講義を実施しています。部の方針策定やその運営を担う安全品質推進部安全品質課リーダーの松田竜介氏は、同じ羽田空港で様々な業務に携わる他社担当者とも安全に関する定期的なミーティングを重ね、情報共有に努めています。また同部安全品質課マネージャーの新田紘史氏は、自分たちが使う車両や航空機の分野を含め空港内で働く際に必要な基礎知識について新入社員に対し自ら指導しています。
貨物搬送の効率化へICT活用の可能性を模索
貨物搬送を円滑かつ的確に行い、航空機の定時運行を確保する上でキーとなるのが、受託する航空会社の発到着全便の運行状況に基づき貨物搬送指示を発信する「コントローラー」です。その業務は、1)各出発便の搭載指示書を確認して作業者を適宜割り振り、搬送や搭載を指示する「出発コントローラー」、2)到着便の状況をモニターで確認しながら無線を通じ、出発便の作業を終えた作業者に到着便のPBB装着や貨物の取り降ろし・搬送を指示する「到着コントローラー」、3)作業者配置の指示漏れの有無や作業の進捗を確認し、イレギュラー発生時の対応など現場作業を総括する役割を負う「チェックコントローラー」 ― に大きく分けられます。
「空港の仕事は(流通する)情報が非常に多く、(コントローラーでは)それを整理して同時に30〜40人(の作業者)と無線一つでやり取りしています」。しかも、紙ベースの伝達などアナログ手法に依存する部分が依然多い、と遠藤氏は指摘。その効率化を図るべく、現在はスマートフォンやタブレット端末など情報通信技術(ICT)の活用可能性が模索されているといいます。
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航空機の定時運行を支える貨物搬送のコントローラー業務
(空港事務所内) |
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とはいえ、システムそのものは航空会社に帰属するのに加え、全国に及ぶその各種業務の受託企業も絡んでくることから、同社では当該作業の実態や電子化移行の効果についての調査を展開。その先で関係者全体にメリットをもたらすようなアプローチを働きかけていきたい(松田氏)としています。
空港内の車両運転訓練用DS構築へのアプローチ
「従業員はほとんど全員が車両を運転する業務に就く中で、新入社員の8割近くは運転未経験者もしくはペーパードライバー。その上、同社が使用するトーイングトラクターなど機材は皆左ハンドルのため、入社後にまずクルマの運転に慣れてもらうところから始まっているのが実態といいます。加えて、同社は3年ほど前からシニア雇用に力を入れており、その運転自体に支障はないものの空港内のルートを覚えるのには苦労している様子が窺われました。そこで車両の運転に慣れるとともにルートを覚えるため利用できる「ドライビングシミュレータがあったら」という考えが醸成されてきた、と鳥越社長は振り返ります。「車両を運転するため(新入社員の訓練は)マンツーマンでやってきているのですが、実際の仕事を教える前に(そのような体制で)運転を教えるのは効率が悪い。シミュレータがあれば(現業部門に配属される前段階で)教官一人が複数の訓練生を指導できる(はず)といった部分もありました」
そうした発想の下、2016年夏に自身らのニーズに適応するシミュレータをインターネットで探すうち、同様な技術を提供する他社製品とともにフォーラムエイトの「UC-win/Roadドライブ・シミュレータ(DS)」に到達。VRに関する予備知識が何もないまま、それぞれに様々な問い合わせを試みた後、鳥越社長と松田氏はその丁寧な説明と価格などの条件面で適合したことから当社を訪問。展示されていた各種シミュレータを体験するうちに「これだったらいけそう」(鳥越社長)との感触を得ました。
さらに、「空港内を特殊な車両で走行するといったDSを扱ったことはないが、ニーズに応えられるよう出来るだけ協力したい」との当社担当者の申し出を受け、10月頃にはUC-win/Road DSの導入を決定。11月頃から同社の要望を示し、それに伴う費用を勘案しつつ、VRで作成する空港の範囲や映像の精度、設定する車両に関する詳細を詰めた後、空港内を撮影。その映像を基にVRの作成が着手されました。2017年2月末までにはUC-win/Road DS をベースにVRを利用した、羽田空港の特殊な環境と固有の走行ルールを反映して特殊車両を運転するための教育訓練用シミュレータを開発。3月の中途採用者向け訓練での初披露を皮切りに、新卒者を含む4月の新入社員向け教育訓練から同シミュレータの本格運用をスタートしています。
また同社は、そこで作成されたVRデータを「第16回3D・VRシミュレーションコンテスト オン・クラウド」(当社主催)に応募。「第11回FORUM8デザインフェスティバル2017-3Days+Eve」のDay1(11月15日)に催されたその最終審査においてグランプリ(最優秀賞)に輝いています。
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羽田空港内の貨物搬送をリアルに体験できる、UC-win/Road利用の
VRシミュレータ |
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DSへの評価と次なるターゲット
「(VR空間のリアル感はもう少し劣るものと思っていたのに)想像したより立派なものであり、(現実の世界)そのままなので、これは完全に使えるのではと実感しました」。鳥越社長はこのシミュレータを使い、新入社員が予めある程度走行できる状態にしておくことで、事故の回避や訓練時間の短縮に繋がるものとの見方を示します。また新田氏は、ルートを覚えるのに役立ったとのシニアからの評判に触れます。
再現性という意味では、松田氏が空港内特有のルールや道路標示の正確な表現を、遠藤氏が特殊車両の走行性の表現を、それぞれ高く評価。危険シーンの説明などへの更なる効果的な活用も視野に入れます。加えて松田氏は、過去の事故事例や飛行機と車両が交差するようなシーンを盛り込むとともに、採点機能を備えることで、新入社員教育のみならず、熟練社員を含めた安全面の向上にも資するツール展開への期待を描きます。鳥越社長はそうしたニーズも踏まえ、さらに多様な情報を付加しつつVRデータを引き続き更新していく考えといいます。
「今後はハイリフトローダーに機材を装着する業務のシミュレーション、過去のヒヤリハットやイレギュラーの事例などをこの中に入れるところまではいきたいと思っています」
第16回 3D・VRシミュレーションコンテスト オン・クラウド 最優秀賞 「羽田空港VRシミュレータによる教育訓練」
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羽田空港内という一般の道路と異なる、車両走行ルールや特殊な環境の中で、安全に車両を運転するための訓練を目的とした、ドライビングシミュレータ用VRデータ。空港内の道路や施設だけでなく、行き交う特殊車両や航空機まで再現、車両運転における危険箇所や注意するポイントの教育・訓練に活用。
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システム概要
ブリッジの番号で目的地を確認し、飛行機の通過を待つなど空港という特殊な環境の中を、安全に運行し所定の場所に停車するシナリオを体験可能。
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様々な特殊車両が走行し、標識や案内が無く、独自の交通ルールも存在している空港の特殊環境における運転訓練
の為にDSを導入。目的地までのルートの暗記や、停止位置などの注意点の確認ができる。 |
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ブリッジなどに書かれている番号等で目的地を確認。空港内は景色が似た箇所も多く、
このようにして目的地を確認する。 |
安全に走行し、目的地に停車。 |
【関連情報】
▼第16回 3D・VRシミュレーションコンテスト オン・クラウド 受賞結果
http://vrcon.forum8.jp/#nominate
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