東電所は、1)電車の運行や駅の運営などに不可欠な大量の電力を安全かつ安定的に供給するための発変電設備、送電線網、電車線(架線)および配電(電灯電力)用設備の新設や更新などを行うエネルギー関連、2)列車の安全・安定輸送を支える信号システムや運行管理システムの新規導入、更新などを行う列車制御関連、3)指令員と乗務員を繋ぐ列車無線、防災情報(風速計や地震計など)を収集・伝達あるいは利用者や社員への様々な情報を提供する通信ネットワークなどの新設、更新を行う情報通信関連、および4)これら業務の円滑な運営を支える幅広い総務業務を行う鉄道事務関連の、大きく4部門により構成。新宿駅に隣接する本所を中心として、東京・新宿・品川・横浜・八王子・千葉・新潟の7電気システム工事区に約1千人の従業員が配置されています。
安全計画の考え方に基づき「じゅくスタ」を駆使した人材育成に力
「安全は、組織だけで行っているものではなく、一人ひとりの意識向上をどう図るかが一番の課題」と、下山室長は位置づけ。そこで安全企画室はJR東日本が標榜する「究極の安全(利用者の死傷事故ゼロおよび社員の死亡事故ゼロ)」を体現すべく、東電所内の安全を一元的に指導。安全を最優先する風土をつくるための人材育成とともに、例えば事故が起きた場合は再発を防ぐため実際に起きた事故の本質や原因を掘り下げ、その上で適切な対策を講じることに最も力を入れている、と言います。
また同社では、グループが一体となって「究極の安全」を追究し行動すべく「安全5カ年計画」を策定しています。そのうち2018年11月に策定された「グループ安全計画2023」(2019年度からの5年間を対象)は、社員一人ひとりの「安全行動」や「安全マネジメント」の進化と変革に加え、そのための新たな技術の積極的な活用を大きな柱に掲げます。こうした流れを背景に、安全企画室としても3D
VRのシミュレータを用いる新しい教育手法を模索する取り組みが進展してきています。
同室にあって特にトラブルの再発防止策を考え、ルールづくりなどその具体化を自身の一番の業務と語るのが、同室安全計画グループの稲本悠也氏。氏は、冒頭で触れた「じゅくスタ」向け教育訓練設備の整備を、もう一つの新たな主要業務と説きます。
東電所はもともと、安全に関して机上や実際の現場、あるいは現場の訓練設備を使った教育に専ら委ねてきたのに対し、JR東日本では数年前からVR技術のメリットに着目。その活用可能性への理解や危険回避の観点などから、VRを適用する訓練シミュレータの積極的な配備への機運が高まってきていました。
そのような中から東電所は2018年10月、実践的な訓練と安全教育に特化した施設「じゅくスタ」をJR新宿ビル4階に開所。そこには、1)異常発見時に列車防護の判断や機器操作を適切に実施できるよう対応能力を訓練する「列車防護訓練シミュレータ」、2)脱線事故を再現し、指揮命令系統や確認会話など事故防止のポイントを学ぶ「線路閉鎖工事手続訓練シミュレータ」、3)電化柱の傾斜を変えたりしながら設備の危険な状態に対する感性を養う「電化柱倒壊事象体感シミュレータ」、4)停電工事で発生し得る事象などを再現し一連の手続きを正しく行えるよう訓練する「停電工事手続訓練シミュレータ」などと併せ、5)業務用自動車運転中の交通事故防止のため危険予知の感性を養う、UC-win/Road DSを用いた「ドライブ・シミュレータ」を設置。自社およびグループ会社の社員を対象とする運用が始まっています。
UC-win/Roadベースの危険予知シミュレータ
業務用自動車を運転する社員の交通事故防止を目的に、安全企画室でDSの導入が検討されたのは2017年の初め。インターネットなどを通じてDSに関する情報を収集し、スペック面も含めその充実した製品ラインナップやアフターサービスへの期待を基に同年春、UC-win/Road
DSにフォーカス。フォーラムエイトの本社ショールームで実機に触れ、3D VRの違和感のない動きや操作性の良さ、昼夜や悪天候の設定切り換えが容易で、ドライバーに危険予知を促し運転感覚を取り戻してもらうための場面の再現が可能な機能を実感(稲本氏)。翌2018年2月にその導入が決定されました。
この間、前述のように「じゅくスタ」開設の構想が浮上。その準備が進むのと並行し、業務用自動車運転中の危険予知シミュレータ(「ドライブ・シミュレータ」)のシナリオをアレンジ。「じゅくスタ」の10月のオープンに合わせる形で完成させ、同DSはその一角に収容されています。
「電気工事の部門ですので、現場へ行くのは昼間はもちろん、夜勤の場合も多いのです」。しかも新入社員は運転経験があまりない半面、入社後最初に現場へ配属されて業務用自動車を運転せざるを得ない状況に置かれがちです。一方、従来は警察など外部の施設を利用していたものの、人数や時間的な制約などもあり、所内に専用のシミュレータを設置したいという意向が醸成されてきた、と稲本氏は経緯を振り返ります。
同DSは、基本的に型式認定基準準拠の安全運転教材の中から目的に即した内容を選択。市街地や高速道路、山道の走行を通じて各種の危険予知を体験できる構成です。
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様々な危険を想定したシナリオによる安全運転訓練に多数の社員が利用している |
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年度が切り替わる4月からは、新入社員教育の一環としても活用していきたい考えといい、その意味では逆走の問題など新しくタイムリーな要素を反映するなど繰り返し体験してもらうための工夫が求められる、と下山室長は語ります。
安全対策へのVR活用のポイント
「VRを使うと、(安全教育のために必要と思われる)どのような場面も再現できます」
そこで日頃から自社の業務を通じ、どういったところに危険があるか、あるいはどういったところが安全を保つためのポイントなのか、といった問題を考慮。それらを事前に把握しておくことが、VRを有効活用していく上で大事になる、と稲本氏は今回の所員教育用DSの構築に取り組んだ体験に基づく見方を示します。
さらに、東電所の安全教育および同DSの効果的運用を所管する部門の責任者として、下山氏は組織の安全レベルを維持・向上させていくことの難しさを説きます。
「安全というのは何もしないでいると、安全レベルは下がってしまうのです」。そこで「(そのための方策の一つである)VRを用いた訓練をいかに定期的にやっていくか、(利用者を飽きさせないようシミュレータ自体の)中身を充実させていくか、というところが一番のポイントになってくると思います」
安全運転シミュレータ 型式認定基準準拠 標準シナリオ
1)危険予測教習(市街地コース。23箇所の危険場面、注意場面)
2) 夜間の運転教習(夜間運転の知識及び技能の学習場面24箇所)
3)急ブレーキ教習(乾燥・湿潤・凍結路面での制動距離に準拠) |
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4) 高速教習(運転技術学習場面18箇所)
5) 地域特性教習(気候、地形など地域の特性を踏まえた道路)
6) 悪条件下での運転教習(11箇所の悪条件下での運転技能学習) |
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