ユーザ紹介第76回 |
東京農業大学 地域環境科学部 造園科学科
造園建設工学研究室 |
Lab. of Landscape Engineering, Dept. of Landscape Architecture Science,
Faculty of Regional Environment Science, Tokyo University of Agriculture |
東京農業大学のホームページ
http://www.nodai.ac.jp/ |
道路最適線形探索システム「OHPASS」の広がるアプリケーション
−3D・CAD、拡張DM、3D・VRなどと連携、景観ソリューションとして「JHDM」ベースの
多様な研究も展開−
箱根駅伝の応援シーンを象徴する「大根踊り」がひときわ有名な東京農業大学。「実学主義」を理念に掲げ、農学およびその周辺分野の教育・研究を通じたユニークかつ高い専門性と質実剛健な校風でも知られます。今回ご紹介するのは、その中で人と自然の共生に直接関わりつつ、地域での行動から地球環境への貢献を標榜する地域環境科学部造園科学科において、そこでの工学的アプローチを探求する「造園建設工学研究室」。とくに、高速道路事業向けCALS/EC(公共事業支援統合情報システム)に対する豊富な知見をベースに、景観と関連した新たなアプリケーションの研究・開発を目指そうという取り組みに焦点を当てます。
同研究室では、造園主体の造園科学科にあって、その設計・施工面に注目。その際、「景観」を共通のキーワードに、担当教員それぞれの専門に沿ったさまざまな研究が試みられています。そうした流れを視野に、情報技術(IT)を駆使し道路など土木構造物を含む造園空間の新たな設計・施工手法を切り開こうという一つが、高速道路事業の路線選定プロセスにおける最適化手法として遺伝的アルゴリズムを用いた「OHPASS(Optimal
Highway Path Automatic Search System:オーパス)」とシミュレーション技術を連携しようというもの。それを実現するツールとして着目されたのが、フォーラムエイトの3次元リアルタイムVR(バーチャルリアリティ)ソフト「UC-win/Road」で、現在なお、その具体化に向けた共同開発が進行中です。
そこで、今回の取り組みを発案し、自ら主導する同研究室の山崎元也准教授に今後の展開を含めお話を伺いました。
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幕末から明治期にかけて活躍した榎本武揚が1891年に創設した徳川育英会育英黌農業科を原点とする、東京農業大学。その背景には、明治維新を経て国力を高める上で国内農業の発展、さらにそのためには農民の教育が不可欠とされたことがありました。
1893年、育英黌から独立する形で東京農学校が設立。その後、組織の改革・変更を重ねる中で、1925年には大学令に基づく(財)東京農業大学となり、1949年には学校教育法による現行の(学)東京農業大学としてスタートしました。
今日、農業を取り巻く時代の変遷を反映し、東京農大は世田谷・厚木・オホーツク(北海道)の3キャンパスに、農学部・応用生物科学部・地域環境科学部・国際食料情報学部・生物産業学部、短期大学部を配置しています。
今回ご紹介する地域環境科学部は1998年、それまでの農学部を改組し、森林総合科学科・生産環境工学科・造園科学科の3学科から構成する形で、世田谷キャンパスに設置。林学や農業工学、造園学といった専門技術と社会学的要素を融合し、山村・農村・都市の各地域に応じた環境の保全と改善を図るとの考え方を掲げました。そのうち造園科学科は、庭園・公園をはじめ都市空間や農山村地域に至るまで、人と自然が共生する環境のデザインおよび建設を研究対象と位置づけ。さらに「造園建設工学研究室」では、持続的発展を視野に共生・共創型の造園エンジニアリングの探求を使命として謳います。
「『景観』には、景色や材料的な造形など広範な要素が含まれます。この研究室にとっては現在、それが最大公約数的なテーマになっています」
2007年春から現職に就いた山崎元也准教授は、それまでの中日本高速道路梶iNEXCO中日本)在籍時代の経験を踏まえ、土木構造物の設計・施工分野を中心に担当。たとえば、CALS/ECへの対応を意識したCAD演習を受け持つ傍ら、景観との絡みではIT利用による景観分析など、CALS/ECデータの活用に関する研究にも力を入れていると述べます。
■「OHPASS」構築の流れ、3D・CADや3D・VRとの連携強化
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山崎元也准教授が近年、継続的に共同で取り組んでいる研究課題の一つに、「OHPASS」が挙げられます。
これはもともと、高速道路の道路線形を決定するプロセスでは、事業の直接の目的はもちろん、道路構造令や関係要領・基準の規定を満たした上で、経済性や安全性、走行性、環境負荷の低減などさまざまな評価項目の考慮を求められたことがありました。ところが、実際にはプロジェクトが事業化され、線形が決定された後、環境アセスメントや地元協議などの段階で線形変更を求められるケースは少なくなく、その際、線形を引き直すのは非常に手間が掛かり、プロジェクトの遅れの原因となるなど問題を来していました。
そこで、設計段階で線形を柔軟かつ速やかにシミュレーションできる検討手法が求められたことから、2000年に当時の日本道路公団(JH)試験研究所(現轄qャ道路総合技術研究所)の委託を受けて且O菱総合研究所が開発に着手。縦断線形および平面線形をモデル化し、その線形モデルに基づいて設計された線形を評価・最適化するプロセスでは、通過点線形モデルと遺伝的アルゴリズムの採用が考案されています。これにより、デジタル地形データ上に道路線形設計をシミュレーション・評価し、事業コスト低減や土工量バランス改善などを可能にする道路最適線形探索システム「OHPASS」が構築されるに至りました。
併せて、3次元CADと連動させ、DM(デジタルマッピング)データを「OHPASS」に取り込めることを確認。そのツール化も図られました。
またこの間、CALS/ECの普及とともにDMデータの流通が増大してくることを想定。自身を含め産学の関係者が参加する「道路最適設計研究会」を組織し、(財)日本建設情報総合センター(JACIC)の研究助成事業に取り組みました。これらを通じ、「OHPASS」と拡張DM-SXF変換仕様(案)の連携をはじめ、「OHPASS」と3次元CAD、さらに「OHPASS」と「UC-win/Road」との連動について検証しています。
「『OHPASS』の評価項目に景観要素を取り入れ、たとえば、線形が変わると景観にも反映されるということを実証したい。それには『UC-win/Road』が連携できれば大きな進展になるものと考えました」
山崎元也准教授は、可視化するための選択肢が複数想定された中で敢えて3DリアルタイムVRツールの「UC-win/Road」を採用した狙いについて、こう明かします。その上で、2007年春から実際に一連の共同研究で使い始めて以来、とくに地形データの表現や航空写真との連携など、ルート探索を支援するツールとしての機能性や再現性の高さを実感したと語ります。
これまで、「OHPASS」−「3次元CAD」−「UC-win/Road」間のデータ連携については確認されてきました。ただ、この仕組みそのものを今後普及させていくためには、それに対応可能な「3次元CAD」の更なる拡充が不可欠。したがって、次のステップでは、改めてこれら3者の連携強化に努めていきたいとしています。
また、「OHPASS」で探索した線形を基に、VRを使って景観をとりあえず表現することは出来ました。しかし、それが良い線形か、悪い線形かを評価する機能がなければ、せっかく選定した成果も計画に反映することが出来ません。そこで、「OHPASS」とVRとの連携のもう一つの展開として、景観をシステム的に評価する機能の追加にも注目します。
「実はもう一つ、NEXCO中日本時代から継続している取り組みに『JHDM』があり、それについても今後の研究に取り入れていきたいと思っています」
「JHDM」は山崎元也准教授がJH試験研究所に在籍していた当時から自らその構築に深く関わってきた経緯があります。CALS/EC導入のピッチが増すとともに、CALS/ECが本来目指した、高速道路事業のフェーズを越えて異種システム間でのデータ利用を可能にするアプローチが模索されていました。そうした中で、高速道路事業ではとくに、各事業プロセスにおいて工事数量や材料諸元など意味のあるデータとして活用することが求められました。そのソリューションの一つとして着目されたのが「データモデル」の考え方で、それがその後のデータ再利用を考慮したデータモデル交換仕様「JHDM(Japan
Highway Data Model:道路データモデル)」の構築へと繋がっています。
現在、この日本初の道路データモデルを活用する具体例として、道路舗装の維持管理と更新を効率的かつ効果的に行おうという舗装マネジメントシステム(PMS)へ適用するため、民間企業との共同研究が動き出しつつあると言います。
さらにPMSに関連しては、路面モニタリングを支援し、平坦性やIRI(国際ラフネス指数)を効果的に測定する簡易測定装置に搭載可能な乗り心地評価システムの開発が計画されています。そこでは、ドライビングシミュレーション機能がキーになることから、新たなVRの可能性も期待されます。 |
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▲東京農業大学 |
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▲造園科学科 校舎 |
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▲左から、山崎 元也 准教授、本多 秀行 氏、笠松 功 氏 |
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▲OHPASS&3DVRシステム
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▲UC-win/RoadによるVRデータ(東京農業大学) |
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「(これら一連の研究の位置づけとして)基本となる考え方に『JHDM』があり、それが『OHPASS』や乗り心地評価システムといった具体的な応用例へと展開しつつある流れと捉えています」
山崎元也准教授にとって、およそ10年前の建設CALS/ECをめぐる多様な課題への取り組みは、その後研究者として歩み出すことになった原点とも言えます。その意味で、「JHDM」が新たなCALS/ECの枠組みにおいて有用な活用例をもたらし、貢献できればとの思いを述べます。併せて、海外での市場性を見据えながら、研究成果の更なる具体化・普及にも力を入れていきたいとしています。
お忙しい中、取材にご対応ご協力いただいた関係者の皆様に改めてお礼申し上げます。 |
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