ユーザ紹介第78回 |
東京都市大学
工学部 都市工学科 都市防災コース |
Disaster Prevention Engineering、Dept. of Urban and Civil Engineering、 Faculty
of Engineering、Tokyo City University |
東京都市大学のホームページ
http://www.musashi-tech.ac.jp/ |
2009年4月、工業大学(武蔵工業大学)から総合大学(東京都市大学)へ
−ツール機能の有効活用でその先の研究にウェート、
各種パッケージソフトを活用するユニークな設計演習も実践−
今年創立80周年を迎える武蔵工業大学は、新年度の始まる4月から「東京都市大学」に校名が変わります。今回ご紹介するのは、同校建学以来の柱の一つ、土木分野をカバーする工学部都市工学科。その中で、都市基盤を成す構造物の安全性向上と都市システム全体の災害軽減を探究する「都市防災コース」において、有用なソフトウェアを有効活用して本来的な研究を効率的に深めようという取り組みに焦点を当てます。
同コースの「構造安全・吉川研究室」では、さまざまな自然災害の脅威にさらされがちなわが国の都市環境を踏まえ、とくに市民の生活とも直結する橋梁などの社会基盤を対象に、過去の被災事例を検証。そのような被害を軽減するための防災技術についての授業および研究を行っています。
また、そうした過程で優れたソフトの機能を積極的に使っていこうとの観点から、これまでにフォーラムエイトの立体骨組み構造の3次元解析プログラム「UC-win/FRAME(3D)」、二軸曲げを考慮する任意形RC・SRC断面計算プログラム「UC-win/Section」、震度法・保耐法に基づき橋脚の耐震設計・補強計算から図面作成まで行う「橋脚の設計」、ラーメン式橋脚・橋台はじめ下部工およびRC構造物の設計計算を行う「RC下部工の設計計算」、土木計算の携帯ツール「モバイルUC-1」 ― などを導入。これらを活用した新しい設計演習の手法を考案する一方、フォーラムエイトと協力し、パッケージソフトの開発や公開講座の提供も実施。同校の他の学部・学科では3次元リアルタイムVR(バーチャルリアリティ)ソフト「UC-win/Road」、3次元構造解析ソフト「Multiframe」なども採用しています。
そこで、同研究室の吉川弘道教授(構造安全・吉川研究室 ※昨年10月より本学総合研究所地震リスクマネジメント研究室所属)、青戸拡起客員研究員,そして,栗原哲彦准教授(構造安全・栗原研究室)ほかの皆さんにお話を伺いました。
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電気・土木・建築の3工学科を設置する武蔵高等工科学校が開設されたのは1929年。その後、1949年には建設・機械・電気の3学科から成る工学部を擁し、新制の武蔵工業大学としてスタート。また、1997年には環境情報学部、2007年には知識工学部を順次開設するのと併せ、工学部内の学科も拡充を重ねてきました。さらに、80周年の区切りとなる2009年4月からは文系の都市生活学部および人間科学部を新設。世田谷・横浜・等々力・王禅寺の4キャンパスに5学部16学科、総合研究所、原子力研究所を配置した総合大学へ発展するのを機に、冒頭でも触れたとおり、「東京都市大学」(中村英夫学長)へと生まれ変わります。これにより工学分野の蓄積を基盤に都市と人を繋ぎ、総合的に未来を捉えられる体制が整うとしています。
そのうち工学部の編成は、機械工学科、機械システム工学科、原子力安全工学科、生体医工学科、電気電子工学科、エネルギー化学科、建築学科、都市工学科の8学科。08年10月からは、同学部を中心に室蘭工業大学と取り組む「遠隔に立地する大学の教育・研究活動の連携
― 水素エネルギー研究協力を契機にして ―」が戦略的大学連携支援事業(文部科学省)に選定され、進行中です。
今回ご紹介する工学部都市工学科は、都市デザインコース(都市政策/インフラデザイン)、都市環境コース(水圏環境/地圏環境)、都市防災コース(施設防災/災害軽減)の3コースから構成。そのうち、学部・大学院時代を通じて吉川弘道教授の指導を受け、コンクリート構造物の解析を専門としてきた青戸拡起氏が現在所属するのは、同教授の構造安全・吉川研究室(都市防災コース)。同研究室では、文部科学省科学研究費補助金交付(2008年度)対象の「鉄道施設の地震リスク解析とリスク転嫁策の研究」をはじめ、コンクリート構造物の非線形解析、性能評価設計法、耐震リスク解析などの研究が取り組まれています。
「良いソフトの機能は積極的に使い、その延長線上に研究を設定するのが戦略」と語る吉川弘道教授。こうした考え方を反映し、同研究室ではIT(情報技術)活用が早くから推進されてきました。
その一環として、同研究室で最もメインのツールと位置づけられるUC-win/FRAME(3D)が導入されたのは5年ほど前に遡ります。実は、青戸拡起氏が同研究室の学生だった10年ほど前、耐震関係の研究で数値シミュレーションの必要性を痛感。自身がフォーラムエイト入社後はその製品開発そのものに携わることになったという経緯があります。そのため、研究者の視点から有効な機能を可能な限り搭載。2007年秋から今度は大学研究室において学生がこれを利用するという観点に立ち、必ずしも従来のように計算理論を熟知していなくても3次元構造物の揺れを容易に再現、把握することが可能になることのメリットに注目します。実際、卒業論文の作成に利用した学生からも橋梁の被災度の推定が視覚的に分かりやすい、といった感想が得られました。
またUC-win/Sectionについては、その一部機能を利用することで、鉄筋コンクリート工学の授業などに際し、それまでは手計算で行ってきた各種の複雑な計算が自動化。これを2年前から授業向けに採用して以来、それらの計算に要していた時間を学生が本来取り組むべき、さらに先の研究作業に振り向けられるようになったと言います。
予想以上に有効活用されているというのがモバイルUC-1。今日ではほとんどの学生が携帯電話を所有しているため、他の高度なツールと併用することで、とりわけ同時に多くの学生を対象とするような授業で効率性向上に繋がっています。
橋脚の設計およびRC下部工の設計計算は、前述のUC-win/Sectionを利用した作業を補足、より詳細な計算に対応する目的で導入されています。
それぞれのソフトを授業と研究にうまく使い分けながら、学科内の学生向けに広く利用機会を提供すべく努力しているのが同研究室の特徴的なスタンス、と青戸拡起氏は見方を示します。
このような過程で、同研究室とフォーラムエイトによるユニークな試みも生まれています。
その一つが「地震リスク解析 FrameRisk」の開発に向けた連携です。これは、従来の耐震設計が「これだけの地震に耐えられる」ということを照査するものであるのに対し、「これだけ壊れるかも知れない」ということを示すもの。同研究室がそのアイディアと定式化を担当し、フォーラムエイトがウィザード型のパッケージソフトとして開発しています。
もう一つは、吉川弘道教授および青戸拡起氏の監修による「吉川教授と学ぶ! 構造工学・耐震設計 WebLesson」。吉川弘道教授は以前から独自に「もっと知りたいコンクリート講座」(http://c-pc8.civil.musashi-tech.ac.jp/RC/)を運営中。これに対しWebLessonは、同研究室で構造設計/耐震設計関係ソフトを使用して行った計算事例にウェートを置き、フォーラムエイトのWebサイトから公開するもの。これまでに10例が紹介されています。
さらに同研究室では、鉄筋コンクリート橋脚の耐震設計計算を効率的かつ短期間に習得させるため、市販のパッケージソフトを活用した設計演習を考案、実践しています。対象となる授業は、鉄筋コンクリート工学や設計に関する演習科目として3年次に設けられている「都市基盤施設設計演習」。全体で90分×2コマの授業を14週実施。そのうち10週は、鉄筋コンクリート橋脚の耐震設計の演習となります。そこに3名の教員スタッフ(吉川弘道教授・栗原哲彦准教授・青戸拡起氏)のほか、同研究室の4年生および修士1年の学生をTA(Teaching
Assistant)として4名配置しました。 |
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▲吉川 弘道 教授(中央)、青戸 拡起 客員研究員
(後列右)、栗原 哲彦 准教授(後列左)と構造安全
吉川研究室の皆様 |
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▲東京都市大学 世田谷キャンパス |
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▲吉川研究室卒論 |
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▲パッケージソフトを活用した設計演習授業 |
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設計対象は、鉄筋コンクリート製T型単柱式橋脚で、道路橋示方書に準じた耐震設計を行うもの。その際、橋脚の設計(1ライセンス)、UC-win/Section(6ライセンス)、モバイルUC-1(各自の携帯電話)を活用。敢えてツールが受講生全員(60名)に行きわたらないよう意図されました。
具体的には、課題1:橋脚基部の断面解析、課題2:RC橋脚の耐震設計(既設橋脚)、課題3:RC橋脚の耐震設計(耐震補強) ― といった3つの課題が順次与えられ、それぞれについてレポートの提出が求められました。たとえば、課題1の断面の設計でUC-win/Sectionを利用しM-φ関係の計算を行うに当たっては、ソフトが足りないため、まず教員とTAが一組目を教え、その学生が順次リレー式で他の学生に教える
― という手法を採用。90分×2コマの授業で全員の作業がほぼ完了することが分かりました。また、単鉄筋による断面の曲げ耐力を手計算で計算、ソフトによる算定結果との比較も行っています。
課題2では、課題1で決定した断面を使い、許容応力度法および地震時保有水平耐力法による耐震設計計算を実施。前者に関してはモバイルUC-1が、後者に関してはUC-win/Sectionが、それぞれ活用されています。
実は、課題2において地震時保有水平耐力法による照査が「OUT」となるような条件が学生には与えられており、課題3では照査結果が「OK」となるよう配筋を変更した上で、課題2と同様なレポートを再度完成させることが求められました。
「まずは定着させるということが重要です。そのためにもさらにクオリティを高めていく必要があります」
このパッケージソフトを活用した設計演習を2007年度・2008年度と2年にわたって実施。一通りの成果が窺われたことから、吉川弘道教授は次年度以降もこの試みを継続し、一つの研究のパターンとして確立していきたいとの考えを述べます。
お忙しい中、取材にご対応ご協力いただいた関係者の皆様に改めてお礼申し上げます。
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