ユーザ紹介第79回 |
兵庫県立 加古川東高等学校
スーパーサイエンスハイスクール 「東高生の描くKAKOGAWAデザイン」グループ |
Kakogawa Design Group, Super Science High School,
Hyogo Prefectural Kakogawa Higashi High School |
兵庫県立 加古川東高等学校のホームページ
http://www.hyogo-c.ed.jp/~kakohigashi-hs/
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文科省指定SSH事業の一環で高校生が地元商店街のデザイン提案に挑戦
−地域アドバイザー(福田知弘大阪大学准教授)による指導の下、
当該エリアに自ら期待する機能を3D・VRで表現−
「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」は、文部科学省が2002年度からスタートした事業に基づき、将来の国際的な科学技術系人材の育成を目指し、理数教育に重点を置いた研究開発を行う学校を指定するもの。今回ご紹介するのはその一つ、兵庫県立加古川東高等学校。とくに同校SSH事業の一環として、課題研究に取り組んだジェネラル・サイエンス(GS)コースの「東高生の描くKAKOGAWAデザイン」グループに焦点を当てます。
まちには、人の優れた知恵が結集しており、そこは本来さまざまな問題を解決できる場であるはず ― 。同班ではそうした観点に立ち、「加古川らしいまちづくりとは何か」をその課題研究のテーマに据え、07・08年度にわたって活動を展開しています。 |
同班の担当教諭を務めたのが同校進路指導部長の竹内均先生。さらに、大阪大学大学院環境・エネルギー工学専攻環境設計情報学領域の福田知弘准教授が地域アドバイザーとしてこの取り組みをサポートしてきました。その背景には、両氏は旧知の間柄であったのに加え、同准教授の3次元CGやVR(バーチャルリアリティ)を利用する環境デザイン手法が同課題研究においてきわめて有効なものと確信されたことがあります。
実際、その具体化にあたっては、福田知弘准教授の提案により3D・VR技術の活用がベースとして組み込まれることになりました。そして、3D・VR空間の作成からさまざまな提案のシミュレーション、作成したデータのプレゼンテーションなどを行うツールとして、フォーラムエイトの3DリアルタイムVRソフト「UC-win/Road」が採用されています。
そこで、福田知弘准教授および竹内均先生をはじめ同班メンバーの皆さんにお話を伺いました。
県内屈指の進学校として知られる兵庫県立加古川東高等学校。同校の前身となる旧制兵庫県立加古川中学校が創立されたのは1924年。学制改革により1948年からは現在の体制へと改められました。同校生徒の国公立4年生大学への高い志望傾向、しかもその半数以上が理系という事情を反映する形で、
1986年には普通科に加えて「理数コース」が設置されています。その後、自主的な課題学習活動や大学・専門研究機関と連携した教育活動を通して、自然科学の探究を促し、そのための能力や適性の伸長を図るべく、2003年には理数コースを前述の「GSコース」に改編。理数教科とともに、国際社会においてリーダーシップを発揮できる人材育成を狙いに英語力強化にもウェートを置いてきました。
そのような流れの中で同校は2006年度、文科省から「SSH」の指定(指定期間5年間)を取得。これを機に、「加古川」と「過去」の二つの意味を重ねる「KAKO」を冠し、「KAKOから未来へ」というスローガンを掲げました。具体的にはGSコースを中心に、(1)自然科学に関する高度な知識に加え、自ら探究・研究する力や新しいものを作り出す独創性を身につけた生徒の育成 (2)地域や地域企業との連携 (3)倫理観を備えた生徒の育成 (4)豊かな国際性を身につけた生徒の育成 (5)科学系部活動等への支援
― を柱とする研究開発を進めることとしています。
これら研究開発アプローチの一つが「課題研究」です。GSコース1・2学年(各学年40名)の「総合的な学習の時間」を利用し、少人数(5名前後)のグループ単位で実施。各班には同校の担当教諭に加え、地域の科学に精通した研究者や技術者から成る「地域アドバイザー」が配置され、両者が連携して生徒を指導する体制がとられています。グループは基本的に2年間継続して同じ研究テーマに取り組むことになり、今回取り上げた「東高生の描くKAKOGAWAデザイン」は07・08年度にわたって展開されました。
■ 課題研究「KAKOGAWAデザイン」取り組みの経緯
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同班の課題研究に参加したGSコースの生徒(現3年生)はそれぞれの動機として、デザインがもたらす可能性への期待、あるいは環境デザインへの興味を挙げます。ただ、未知の領域への挑戦といった趣が濃く、とくにツールとして用いられたCGやVRはほとんどの生徒にとって初めて扱う機会になったといいます。
一方、福田知弘准教授は自身が同校の卒業生であるとともに、同校のSSHプログラム全体について専門的見地から指導・助言・評価を行うSSH運営指導委員会にも参加。同校のSSH指定と前後し、後輩たちに向けて自らの取り組みに関する講演も行ってきました。
そのような経緯の下、竹内均先生が担当する課題研究「東高生の描くKAKOGAWAデザイン」の地域アドバイザーを依頼されたことを踏まえ、地元加古川を対象として先進的な環境デザイン手法の一端に触れるプログラムが着想されました。
そこには、大学や就業場所が少ないため高校卒業を機に若者たちがまちを出ていくというケースが多く見られる中で、それまでに自分たちのまちに愛着を持って目を向けてもらえるきっかけにしたいとの思いがありました。
またその過程では、自らまちを踏査して課題を見つけ、CGやVRなどの科学技術を使い提案してもらうというアプローチの骨格が描かれました。「CADの画面上で絵がグルグルと動いている時、そのコンピュータ内部では三角関数や行列の演算が超々高速で行われています」。既存の知識はそのようにコンピュータに組み込むことで利用が可能。しかし、未知の知識については自ら発見し、そこに組み込んでいく必要があります。そのためにも、数学をはじめ高校で学ぶ科目の勉強が重要であるということを伝え、VRなどのソフトウェア利用を通じて実感してもらいたいとの狙いが込められたと福田知弘准教授は語ります。
「東高生の描くKAKOGAWAデザイン」は2007年10月、GSコース1年生の6名が参加して実質的な活動をスタート。初めにメンバーの自己紹介と併せ、各自の自宅および学校周辺でお気に入りの場所とそうでない場所などについて整理しました。
続いて、加古川市の市街地を中心に現状把握を目的とするまち歩きを12月と翌2008年1月の2回、ルートを変えて実施。その結果については直接地図に書き込むのと併せ、ポストイットを使いアナログ的に要点を抽出。さらにGoogleマップを利用してデジタル的にも表現し、初年度の成果としてまとめています。
こうした作業を経て同課題研究の2年目に当たり「寺家町(じけまち)商店街」にターゲットが絞られました。そこはJR加古川駅と近接した中心市街地にあって、隣接するベルデモールなどは比較的人通りが多い中で、近年シャッターを閉ざしたままの店舗が目立っているところ。同校からも近く、何とか人の流れを同商店街へ振り向け、高校生の視点で活気溢れるまちにしたいとの発想に繋がっています。
まず、1/500の地図をつくり、実在する建物や業種などの情報をプロットしました。次いで、課題研究の限られた時間および予算内で3D・VR技術を活用して生徒自らデザイン、シミュレーション、提案まで完結する必要から、それらの条件を満たしつつ3Dモデルを作成するためのGoogle
SketchUp Pro、画像処理を行うためのGIMP(GNU Image Manipulation Program)、3D・VRでさまざまにシミュレーションし、なおかつ作成したデータでプレゼンテーションも出来るUC-win/Roadをそれぞれ採用。8月にUC-win/Roadの使い方についてフォーラムエイトの担当者から集中講義(1日)を受け、あとは福田知弘准教授の指導により必要なソフト利用スキルの習得と寺家町の現状の3Dモデル作成が進められました。
それと並行し、寺家町商店街の課題についてブレーンストーミングした後、KJ法で分類。その中から魅力的で持続可能なもの、さらに自分たち高校生が「こんなことをしたい」「こんなことをしたら人が集まるのでは」といった観点から絞り込みを行いました。
その結果を受けて、6名のメンバーが寺家町商店街に実在する空家の中から半径20m以内で互いに重なり、それぞれ関連し合うよう、受け持つ場所を選択。12月から翌2009年1月初めにかけてGoogle
SketchUp Proを使い、(1)自転車に乗ったまま買える回転焼きの店 (2)立体駐輪場 (3)ライブハウス (4)雑貨屋 (5)図書館 (6)休憩所といった、各自が着目した機能を実現する新しい建物を個別にデザイン。作成した個々のモデルについてはUC-win/Road上に逐次エクスポートするとともに、各建物や人などモデルの細部には発表の期限間際まで手が加えられました。
クラス(GSコース)内8班による発表会は去る2月4日に開催。その際、パワーポイントを使った説明用として、VRデータで2分間程度のアニメーションを編集しました。同班は続く「サイエンスフェア
in 兵庫(合同発表会)」(兵庫県立神戸高校で2月7日開催)にも、同校を代表する形でこの研究成果をポスターセッション発表。さらに2月18日のSSH研究発表会では、各班(1・2学年合わせて18班)がポスターセッションを行う中、プレゼンテーションを行う5班の一つに選ばれ、VRの活用により限られた時間の発表でデザイン提案を効果的に示すことができた、と竹内均先生はそのメリットを述べます。
また、VR技術の有する可能性や高校生のソフトウェア習得スピードを改めて実感。せっかくソフトを購入し、ノウハウもある程度得られたことから、別の課題研究への有効活用なども探っていきたいとしています。
今回課題研究で福田知弘准教授は、高校生の時間(負担)をどの程度見込めるものか、また自主的な研究の促進を狙いとしながらどこまで誘導すべきか、という判断が難しかったと言います。しかも、まちづくりと専門の異なる高校側担当者の理解と協力がどこまで得られるかという不安も。それが実際には、非常に柔軟かつ積極的な対応が得られたことで、良い結果にも繋がっていると振り返ります。
お忙しい中、取材にご対応ご協力いただいた関係者の皆様に改めてお礼申し上げます。 |
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▲竹内 均 先生と、「東高生の描くKAKOGAWAデザイン」
グループの皆様 |
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福田 知弘 准教授
大阪大学大学院
環境・エネルギー
工学専攻 |
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▲兵庫県立加古川東高等学校
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―東高生の描く KAKOGAWA
デザイン― |
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