名古屋大学と同じプラットフォーム研究成果の比較も可能に
チュラロンコン大学がフォーラムエイトのドライビングシミュレーターを選んだ背景には、名古屋大学の産学連携研究拠点、「ナショナル・イノベーション・コンプレックス(NIC)」との連携や共同研究を行いやすくするためでもあった。NICも2015年にフォーラムエイト生の6軸モーションプレート付きの高精度ドライビング・シミュレーターを導入し、「高齢者が元気になるモビリティー社会」などの研究に使っている。
名古屋大学特任教授で未来社会創造機構 名古屋COI拠点産学連携リーダーの原口哲之理氏は、2016年9月にチュラロンコン大学で開催された第2回自動車技術者フォーラムで議長を務めるなど、SMRCとも交流があった。このイベントにはフォーラムエイトも過去3回、スポンサーとして参加している。また、2015年ごろには原口教授の案内でSMRCのヌームウォン助教授がフォーラムエイト東京本社を訪れ、様々なドライビングシミュレーターを体験した。
「名古屋大学と運転者の行動や自動運転などの研究成果を比べるためにも、同じプラットフォームのドライビングシミュレーターを使った方が有利だと思った。もちろん、フォーラムエイト東京本社で、実物を体験してその性能を高く評価していたことも、導入のポイントになった」とヌームウォン助教授は言う。
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名古屋大へ納入した大型5面立体視ドライビング・シミュレータと原口教授 |
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SMRCのドライビングシミュレーターは、既に修士課程や学部の学生たちが、酒酔い運転や高齢者の運転行動などを調べるための実験に活用し始めている。さらには土木工学科の研究者からも、このシミュレーターを研究に使わせてほしいという希望が来ているという。
ドライビングシミュレーターを使った先端的な研究活動は、学生たちにも人気の的だ。研究室には修士課程の学生が毎年3〜4人、学部生に至っては毎年約30人も配属されるという。自動運転用の実験車両や模型車両、コンピューターなどが置かれた研究室では、十数人の学生たちが実験の準備やプログラムの開発に取り組んでいた。
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自動運転車として改造中の車両 |
元気いっぱいの学生たち |
安全、ITS、電動化が研究の3本柱DSで研究を加速
SMRC における自動車の研究は、3つの主要分野をカバーしている。
1つ目は「アクティブ&プリ・クラッシュセーフティ」という衝突防止システムだ。この研究の要は、ドライブレコーダーを使用して運転行動データを収集することだ。現在のプロジェクトではGPSデータと運転者の生態データによる危険運転検知や、車線逸脱警告システムを研究している。自動緊急ブレーキシステム(AEB)や車線保持支援システム(LKA)、後部からの衝突を最小化するためのブレーキやハンドル操作 など、運転を自動化するための研究が進行中だ。
2つ目の分野は、高度道路交通システム (ITS)だ。交通流の分布を把握するためのプローブ車両データの収集や旅行時間の推定、車両間(V2V)通信、そしてエコ運転など様々な交通関連の研究が含まれる。SMRCも「WBCSD
SMP 2.0 バンコク」(サートーン・モデル)として知られている社会実験に参加している。この実験では、バンコクの高層ビル街である「サートーン地区」の交通問題に取り組むため、様々な計測が行われている。
3つ目は、車両の電化についての研究開発だ。研究内容には、バッテリーや燃料電池、スーパーキャパシタの研究、電気自動車やハイブリッド車のエネルギー使用などがある。SMRCでは、エネルギー省の支援を受けてバンコク市内の交通状況で電気自動車やハイブリッド車が消費するエネルギー量を推定するプロジェクトに参加している。
6軸DSを活用新たな研究テーマに挑戦
SMRCでは、新たに導入したフォーラムエイトの6軸ドライビングシミュレーターを活用して、運転行動に関する研究をさらに拡大していく計画だ。安全運転の分野では、実車に搭載されたドライブレコーダーのデータを、シミュレーターに投入し、実際の運転環境をシミュレーションで再現できる点に注目が集まっている。
例えば、酔っぱらい運転や居眠り運転の研究は、ドライビングシミュレーターがあってこそ、可能になる。先進運転支援システム(ADAS)や自動運転機能も、ドライビングシミュレーター上でテストすることが可能だ。このほか、事故発生の直前状況をシミュレーターで再現することにより、どんな前兆行動が事故に結びつくかも明らかにできそうだ。実験で得られたパラメーターは、名古屋大学の研究成果とも比較できる点がメリットと言えそうだ。
独自のDSを開発
今回、フォーラムエイトの6軸ドライビングシミュレーターを導入したSMRCでは、2005年から独自のドライビングシミュレーターをいくつも開発してきた。技術上の課題や開発の難しさも熟知している技術者が、フォーラムエイト製品を選んだことには大きな意味がある。その開発の歴史を紹介しよう。
●第1世代(2005年)
最初のドライビングシミュレーターは2005年に作られた。ハンドルとアクセルによる加速、ブレーキによる制動のコマンドを読み取ることができたが、ステアリングフォースフィードバックは付いていない。このシミュレーターでは、シングルトラック車両モデル(自転車モデル)を使用していた。画面に表示するコンピューターグラフィックのプログラムは、単純な幾何学的形状を使用した。車両モデルとグラフィックは「MATLAB」というプログラムで書かれた。
ハンドル操作について、いくつかのフォースフィードバックシステムが設計され、ステアリングホイールに取り付けられた。ダイレクトドライブやベルトシステム、多段プーリー、ベルトシステムがテストされた。操舵システムの慣性をシミュレートするために、慣性ディスクもステアリングコラムに含まれていた。
●第2世代(2006年)
2006年には、米国からの車両と交通モデルのない3自由度のドライビングシミュレーターを導入した。ドライビングシミュレーターと模型の車両が連動したもので、ドライバーによって運転制御が模型の車両に伝わり、逆に模型の車両の動的反応はドライバーにフィードバックされるようになっている。模型車両に装備されたカメラは、ミニチュア道路を観察するために使われた。この研究は、厳しい車のテスト状況でコストとリスクを削減するのに役立った。
第2世代のシミュレーターでは、ピッチとロールの動きを再現する取り組みも行われた。運転性能に及ぼすロール運動の動きを、ハンドルバーで操舵する三輪車「トゥクトゥク」について検討した。また、転倒を軽減するためのロール・アンド・ピッチ運動の効果についても検証した。
グラフィック処理には「Unity3D」が導入され、グラフィック的にも進化した。
●第3世代(2008年)
第3世代のドライビングシミュレーターは、トリ・ペッチ・イスズ・セールス社の支援により、エコ運転を評価するために開発された。モーションプレートは付いていないが、軸方向の加速特性は、実車のいすゞピックアップを用いた実験から導かれた正確なデータを使用している。また、エンジンと変速機のダイナミクスも含まれているため、正確な燃料消費量も推定できる。グラフィックにはUnity3Dが使われた。
●第4世代(2010年ごろ)
従来のバージョンに基づき、モーターやトランスミッションベルト、マルチターンポテンショメータ、慣性ディスクを含むステアリングフォースフィードバックシステムを追加した。ステアリングシステムの力フィードバックゲインと不感帯を考慮したステアバイワイヤシステムとドライバーの挙動を調べるために使用された。
●第5世代(2011年ごろ)
カウンターバランス型フォークリフトのシミュレーターとして開発された。 このシステムは、Unity3DソフトウェアとLabVIEWを使用して、ステアリングや加速、制動のコマンドをインターフェースするために構築された。
3台の3Dプロジェクターとヘッドトラッキングカメラを使ったシステムを構成することもできる。フォークリフト運転者がパレットの上げ下げを、立体視によって訓練することができる。グラフィックはドライバーの頭の向きを基準としており、運転手が頭を動かすとパレットとフォークを別の角度で見ることができる。
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