いすゞプラザは、1階と2階が展示スペース、3階が会議室などのプライベートスペースにより構成。そのうち1階は「『運ぶ』を支えるいすゞ」、2階は「いすゞのくるまづくり」および「いすゞの歴史」の各テーマを冠してレイアウトされています。フォーラムエイトと共同開発したDSは「いすゞのくるまづくり」を紹介するエリアに設置。同エリアは小学5年生の社会科見学コースに設定されており、くるまづくりについて様々なアングルから体感しつつ学べる体験アイテムの一つ、と位置づけます。
3つのテーマを体感してもらうため随所にユニークな工夫
「幅広い層の人たちに来ていただくといういすゞプラザ1階のエントランスホール左手は、ロゴマークのくるまや街並みを3D化した複数の椅子で休める「PIAZZA(ピアッツァ)」がゆったりとした空間を演出。奥の壁面では地元藤沢市と同社藤沢工場が関係する歴史を紹介しています。
一方、右手奥の受付に続き、「『運ぶ』を支えるいすゞ」の導入展示がスタート。まず、現存する最古のトラック「ウーズレーCP型」(経済産業省の「近代化産業遺産」に認定)の展示(館内に展示されているくるまはすべて動態保存)と連携する形で、1)同社の創業(原点)は東京石川島造船所と東京瓦斯電気工業が自動車製造を企画した1916年に遡り、自動車メーカーとして日本最古の歴史を誇ること、2)その後、組織の再編や改称(ダット自動車製造の合併と自動車工業への改称を含む)などを経て1937年に東京自動車工業(いすゞ自動車の前身)を創立、今年で81年目を迎えている
― といった流れが説明されます。
続いて、進路に沿う形で「タイムトンネル」を構成。通路の壁面にイラストや写真を交えながら「ウーズレーA9型国産第1号乗用車」(1922年完成)、「ウーズレー」から「スミダ」への改称(1928年)、同社のベストセラートラックとなる初代「エルフ」の登場(1959年)、同社初の自主開発乗用車「ベレル」(1961年)、大型観光バス「ガーラ」(1996年発表)、大型トラック「ギガ」(2015年発表)などのエポックが掲示されています。
|
|
同社のエポック的製品を時代毎に展示。「ウーズレーCP型」(右)は近代化産業遺産に認定されている |
「導入展示の一つの見せ場」(中尾氏)という「ミニチュアワールド:『運ぶ』を支える」は、日本最大級のジオラマです。リアルさを追究し、「魂は細部に宿る」との考えを徹底してデザイン。架空の都市の1日を15分間で表現する中に、「『運ぶ』を支える」をテーマに100以上のシーンが散りばめられています。同社製約200台を含む約660台のくるま(一部は船舶)を配置。うち45台(43台と2隻)が全部自動で走行し、最後は自ら充電ステーションへ戻る仕掛けです。また、すべて同一スケールでつくられ、しかもくるまが走行するジオラマは日本で唯一とされます。
|
|
|
「ミニチュアワールド:『運ぶ』を支える」では同社の様々な車両が架空の街「いすゞ市」の一日を走る |
その先は、いすゞの最新のバスや大型・中型・小型の各種トラック、海外で生産され海外でのみ販売されているSUVなどに触ったり、乗ったりできるコーナーを設置。併せて、建機や船舶など向けの産業用エンジンが展示されています。
「いすゞのくるまづくり」エリアは前述のように小学5年生の社会科見学コースに設定されていることから、展示物や映像は基本的にすべて低めの視点を想定した体験アイテムで構成されています。
まず、トラックが出来るまでを知るコーナーでは13,000点に及ぶトラックの部品を2Dの設計図面と3D CGのシミュレーションで対比して可視化。ミニチュア模型(実際の1/20の大きさ)や映像、実物を通じた生産ラインやトラックの仕組みの把握、試作や実験、プレス、塗装といった生産工程、「運ぶ」を止めないための稼動サポート(予防整備)の体験も出来るように工夫されています。また、CSR(企業の社会的責任)に関連して同社の新技術を体験してもらおうと導入されたUC-win/RoadベースのDSもこのエリアの重要な一角を占めています。
|
|
|
3つ目の「いすゞの歴史」エリアは、大きく「歴代の名車」と「技術の歴史」より構成。前者は江戸時代末期に遡る自社の起源を踏まえ、レストアされ日本に現存する唯一の走行可能な国産乗り合いバス「スミダM型バス」、戦後の復興期に活躍した「TX80型トラック」、高度経済成長期を支えた初代「エルフ」、同社が初めて自主開発した日本初のディーゼル乗用車「ベレル」、ゼネラルモーターズ(GM)との提携により同社が初めて国内販売したシボレーのピックアップトラック「LUV」、GMのグローバルカー構想に基づき開発された「ジェミニ」などの車両を時代背景とともに紹介。後者はディーゼルエンジン技術の歴史と歴代の代表的な実機、データを基に1/43スケールで手づくりした86台を含む110台のミニカーで同社の歴史を振り返る年表を展示。東京モーターショー2017に出展した未来の配送を表現する同社のデザインコンセプト「FD-SI」を紹介するコーナーも設けられています。
ツアーの最後は有期の企画展示エリア。訪れた6月下旬は発売から50年を迎えた「117クーペ」、および2017年4月11日のオープンから1年を迎えた「いすゞプラザ」の各記念展示が行われていました。なお、同プラザは去る6月9日、来館者が累計10万人を突破しています。
DS具体化のプロセスと利用の現状
「いすゞプラザ」の設置が企画されたのは2014年初め。長年カーデザインに携わってきた中尾氏は、同プラザの企画が持ち上がった当初からそのすべてのデザインおよび展示に関するディレクションを担当。そのような初期段階で、様々な企画についてワーキンググループ(WG)が立ち上げられ、その中でシミュレータが必要という意見が浮上。同社が取り組む安全や環境に関する先進技術の展示向けシミュレータの利用について、小西氏を中心に検討することが求められたといいます。
「(WG)メンバーでまず議論し、大型トラックで先進安全技術を体験できるようなシミュレータ、もう一つ(のコンテンツとして)は燃費についても(それで)何か出来れば良いね、というような大まかなコンセプトをつくりました」
その後、まだ建屋の概略の図面しかなく、設置スペースや台数も分からない中、こうしたコンセプトを実現できそうなところを調査。複数社に赴き製品を見たり対話を重ねたりするうちに2015年、シミュレータに関する幅広い実績などからフォーラムエイトとともに取り組むことを決定した、と小西氏は振り返ります。
UC-win/Road DSをベースに共同開発したシミュレータは、大型車両を運転しながら先進安全装置の体験と燃費志向の走行体験の2通りをゲーム感覚で行えるもの。エコ体験か安全体験かを選択した後、シートベルトを装着し、パーキングブレーキを緩めると、DSがスタートします。そのうち安全体験では、車線逸脱警報や被害軽減ブレーキなど実際に同社の商用車に搭載されている先進安全装置をリアルに再現。また、大型車ならではの高い視点やステアリングの切れる角度、ブレーキの利き方、内輪差などについては納品ギリギリまで微調整を重ね、実車に限りなく近い体感を実現しています。例えば、湘南台から江の島までのオリジナルに作成した道路を使うエコ体験、あるいはUC-win/Road
DSの既存データを利用し作成した道路を使う安全体験は、所定の時間内にゴールするとそれぞれの運転に対して具体的な評価とともにランクが示されます。
|
|
|
「エコ体験」では地元の道路を再現。いすゞプラザ前を通り湘南台から江の島までを走行する |
|
|
|
「安全運転体験」では大型車ならではの高い視点やステアリング、ブレーキ、内輪差をリアルに再現 |
DS運転体験はリピーターが多く
最も人気が高い |
同プラザでは現在、同DSを3台常設(東京モーターショー2017の期間中のみそのうち2台を出展)。子供たちを中心に最も人気の高いアイテムになっており、リピーターも多く1年超を経過してなお、土曜日などは列をなすほど。モーターショーの際も2週間で約2千人の利用があったほか、国内外の販売会社から同DSに関する問い合わせもある、と中尾氏は語ります。
「私たちの安全技術や燃費技術もどんどん進化していくはずで、いずれDSを変更しなければならない時も来ると思います。その際、よりリアルに体現できるよう一緒にいろいろ出来ればと考えています」
|